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新【翼の記憶】
【ファンタジー 恋愛小説】

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出会い-1

この世界は強大な力をもつ五大国から成っていた。
[死の国]・[吸血鬼の国]・[雷の国]・[精霊の国]・・・そしてここ[悠久の国]王はキュリオ。

美しい銀髪をなびかせ、長身の彼は数人の家臣を引き連れ泉の傍を歩いていた。時折頬に触れるおだやかな風が悠久の平穏さを意味している。



「・・・ここか」



キュリオは枯れかけた泉に足を踏み入れると、静かに両腕を持ち上げ目を閉じた。すると、彼から発せられたまばゆい光がゆっくり降り注ぐ・・・と同時に、みるみる輝く水が湧きだし枯れた泉を瞬く間に潤していった。やがてまわりから感嘆の声があがると、安心したようにその場から離れる。




「キュリオ様!!」




見回りで離れていた家臣が声をあげて戻ってきた。
 



「どうした?」




落ち着いた様子でキュリオが振り返る。





「聖獣の森で赤ん坊の泣き声がしまして、現在数人が捜索に向かっているところでございます!」




「赤ん坊が聖獣の森に?」



(親に捨てられたのか・・・?)




キュリオは胸を痛めながら自らも聖獣の森へと足を向けた。


やがて森の中を歩いていくと・・・
一角獣(ユニコーン)が赤ん坊を守るように立ちはだかっているのが見えた。



キュリオは怯えることもなく一角獣の傍に立つと優しく頭をなでる。警戒心の強い一角獣に近づくことが出来るなどキュリオ以外いないだろう。先程まで威嚇する素振りをみせていた一角獣だが、キュリオの瞳をじっと見つめると一歩・・・また一歩と赤ん坊から離れていく。



「さすがはキュリオ様だ・・・」



後方に待機している城の者たちは憧れの眼差しでキュリオに見入っている。




「ああ、心配ない。私が預かろう。」




彼はキュリオが赤ん坊を抱きかかえたのを確認するとどこかへ行ってしまった。人も獣も大自然さえもキュリオが絶対的な王であることを認めているのだ。




「よく眠っている。おなごか・・・?」




涙のあとが残る小さな赤ん坊の目元を優しく指でなぞると、くすぐったそうに赤ん坊が微笑んだように見えた。キュリオはその愛らしい表情に目を細めると、心配する家臣に城に帰還すると合図を送り、一行はその場を後にした―――――

「お帰りなさいませ、キュリオ様」



恭(うやうや)しくお辞儀をする大臣や女官の間をあるくキュリオ。



「あぁ、今戻った。変わりはないか?」



「はい、何事も起きておりません」



キュリオが胸に抱く赤ん坊をみて誰もがそのまま孤児院に預けるものだと思っていたため、女官のひとりが赤ん坊を受け取ろうと腕を差し出すと・・・片腕をあげてそれを制した彼はそのまま自室へと歩いていった。



「あ、あの・・・キュリオ様?」



女官たちが困惑した表情を浮かべると、様子をみていた彼の側近である大臣のひとりが慌てたように見えなくなりつつある王の背を追う。



広間を抜け、白く大きな階段を駆け上がると・・・
口元に笑みを浮かべ、赤ん坊に笑いかけるキュリオの姿があった。



(キュリオ様・・・なんてお顔を・・・)



民や聖獣を等しく愛する悠久の王の愛はどこまでも深く、全てに向けられているものだ。そして等しく愛しているからこそ個人に優劣をつけることもなく、彼にとって特別な存在などないのだ。




「キュリオ様、その方は姫ですかな?それとも王子ですかな?」




孫を見るような優しい瞳で背後から声をかけてきた初老の大臣にキュリオは振り返った。




「この愛くるしい表情は・・・きっとプリンセスだよ」



幸せそうにキュリオは言葉を発すると、目の前の扉をあけて中に入ってしまった。



彼の部屋に入ることが許されている者は極わずかで、本来ならば王の部屋の周辺を歩くことでさえ恐れ多いのだ。そして今日出会ったばかりであろうこの赤ん坊を部屋に入れたとなると・・・今までとは違うキュリオの心境が容易にみてとれるのだった。





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