2.-1
個室のドアに鍵を掛けた板東は、ベッドのサイドテーブルに置かれていた二つのマグカップを慌てたようにドアの横のシンクに運び、振り向いて私の背後に立ってブラのベルトに手を掛けました。
彼は前の晩もこうして、私のブラを自分の手で外してきましたが、露わになったバストには何故か全く興味を示さず、行為の間中一度も触ったり舐めたりしませんでした。そしてこの夜も同様でした。
私のバストは人並み以上に大きく、友達も恋人の龍もそのことをいつも話題にしてくれていて、正直私自身は少し優越感を持っていました。しかし板東はそれを完全に無視しているのです。私はそんな取るに足りないこと、というか、こんな非常識な場面で気にするようなことではないその状況に、何故かひどくこだわっていました。もちろん、だからと言ってこの男にバストを思い切り刺激して欲しいなどと思っていたわけではありません。
前日も、その夜も板東という男は、そんな風にあまり私の身体に積極的に触ってくることはありませんでした。相手を裸にしたら、それである程度満足してすぐにコトに臨むといった、滑稽な焦りのようなものを私は感じていました。
服を脱ぎ去った板東は、ぴったりとした清潔感溢れる短いボクサーショーツだけの姿になっていました。一般的に見てもそれはとても似合っていて、彼の若い風貌をことさら強調し、魅力的なものにしていました。まるでグラビアの写真のように均整のとれた、美しささえ感じる裸の身体で、微笑みながら私を見つめています。こういう姿で迫られれば、たいていの女はふらふらと最後までいってしまうだろう、と私は冷静に考えたりもしていました。
私のブラを外した板東は、あっけなく下着を脱ぎ去り、先に全裸になりました。すでに彼のペニスは大きくなってビクビクと脈動しています。彼はそのまま私を正面から軽く抱き、静かにキスを求めてきました。
この時も彼は身体を密着させることなく、口だけを突き出すようにして、私の唇に押しつけるのでした。
私はその時身体を堅くして少し抵抗しましたが、すでに熱くなり始めていた身体の要求には勝てず、彼の舌が自分の口の中に入ってくるのをいつしか味わっていました。彼の熱い息はほのかにバラの香りがしていたような気がします。
そして板東はそのまま私のショーツに手を掛けました。
ベッドに寝かされた全裸の私は、これから起きる出来事への期待でどきどきしていました。でもそれは、決してこの板東という男性に抱かれることに興奮していたわけではなく、誰かとセックスすることで身体が性的に燃え上がり、熱い火照りを昇華できるはずだという期待です。昨夜得られなかったものを私の身体は貪欲に要求していたのです。
事実気持ち的に私はこの男性に対して、ほかの実習生のようにときめいたり憧れたりしていたわけではありません。その時、そのすらりとしたセクシーな肉体を目にしても、その甘く優しげな微笑みを向けられても、私自身はどきどきして心奪われることなどあり得ませんでした。特別嫌っていたというわけではありませんが、私にとってこの板東俊介という男性は「実習で出会った年上の親切な男性」程度の認識でしかありませんでした。ただ、その時彼に憧れている他の実習生に対する優越感がなかったかと言えば、それは正直嘘になりますが……。
シンプルな一人用のベッドで、全裸の板東はいきなり私の身体にのしかかり、抵抗できないように腕を押さえつけて、先端から透明な液を漏らし始めたペニスを私の腹部に擦りつけながらしきりに舌で私の唇を舐め始めました。
しばらくそうやって彼は私の口を執拗に舐め回しました。これは前日のホテルでは板東がなぜかやらなかった行為です。思ってもいなかったその行為の結果、彼の唾液が私の頬を伝い、その生暖かい感触を、ひどく気持ち悪いと感じた私は、板東が身体を離した時に、口を手で乱暴に拭っていました。
「お願いです、灯りを暗くして下さい」
私が小さな声で言うと、板東は肩をすくめて、「そうだね、やっぱり明るいと恥ずかしいんだね。ごめんごめん
」と返し、頭を掻きながらベッド脇の電気スタンドを、コードについていたスイッチを捻って灯した後、ドアの横の壁にあった部屋の電灯のスイッチを切りました。
パチンと音がした途端、部屋全体が艶めかしい琥珀色に染まりました。