再会-2
3.
オーストラリアに転勤をした秀雄が、久しぶりに東京に戻ると聞いて、高校生仲間が同窓会を開いて呉れた。
昔話に花が咲くうち、かつて秀雄と和子の交際を思い出した仲間が、和子の母が死んで今日が通夜だと知らせて呉れた。
秀雄は和子の家を何度か訪ねて、母親とも顔見知りであった。同窓会を早々に切り上げると、記憶を辿って和子の家に向かった。
池袋の北口から歩いて15分、見覚えのある生垣を回り込むと、薄暗い路地を一層狭苦しく見せて、花輪の列が並んでいる。
弔問客も大方帰ったとみえて、電灯の灯る玄関口がガランとしている。開け放しの敷居を跨いで奥に声をかけると、「はい」と女の声がして喪服姿の女が出てきた。
秀雄にはその女が和子だとすぐ分かった。随分と会わない間に、すっかり成熟した女の物腰が板について、通りですれ違ったら気が付かないに違いない。じっと見ている間に、高校生の頃の面影がにじみ出てきて、20年の昔に記憶が飛んだ。
「あのう… もしかして南田さん?」
和子の目が秀雄を見据えて、瞬きを止めた。
「しばらくでした。今日同窓会で、お母さんが亡くなったって聞いたもんだから・・」
和子は、幽霊でも見たように凝固したが、やがて気を取り直したように頬を緩めた。
「本当にしばらくでした。その後、お変わり無くて・・、とにかくお上がりになって」
秀雄は案内されるままに、棺の安置してある部屋に通された。
型通りの焼香を済ませてご霊前を供えると、一人ぽつんんと座っている和子に改めてお悔やみを述べた。
「さっきまで姉と子供たちが居たんですけど、あす早いからって帰りましたのよ」
和子は、人気の無い周囲を見回して、言い訳でもするようにつぶやいた。
「お母さんと二人暮らしだったんですか、結婚をしたって友ちゃんから聞いていたんだけど」」
「ええ、2人居た姉が嫁いで、・・・秀雄さんも会ったことあるわよねえ・・・主人が蜘蛛膜下出血で早死にして、子供がいなかったもので、実家に戻りました。母があまり丈夫じゃなかったんで、面倒を見ながら勤めに出て、・・・」
残り物で申し訳ないけれど、もう客も来ないからお清めしていって下さいと、和子は隣の部屋に膳を整えた。
和子は秀雄の差し出す徳利を受けながら、和やんだ表情をした。
「秀雄さんが来てくださるなんて、嬉しいわ」
「ホテルに帰っても寝るだけだから、今夜は和子さんに付き合ってお通夜をするか」
「まあ、そんな。早くお帰りなさいとは言えないけれど、程々で引き上げて下さい。こんな生活には慣れていますから」