俺にしなよ-4
「いやーホントゴメンゴメーン!慌てたよね…。」
案の定、昨夜の主催者突然欠席に、ブーイングを受けまくる東堂君、フンざまぁないね。
皆に詰め寄られひたすら苦笑いを浮かべ、私はそんな彼など知らず冷たい背中を向け、教室を出る。
「いやーははは。……。」
人と人との間から去っていく私に視線を向ける、何よ。
腹を立て、この日一日はほとんど眉をつのらせていた、こんなの絆が見たら悲しむだろうなぁ…。
授業中はアイツに意識しないよう授業に集中し、休み時間は彼に会わないよう颯爽と教室を出て。彼をとことん避けた。
また言い寄られたくない、それもあるが何よりも自分自身、彼と居てまた妙な決してあってはならない感情が膨れあがってはならないように。
「今日は案外風が強いわね。」
「そうだね。大丈夫?寒くないかい?」
「うん!ありがとう。」
私の先を歩くカップルの他愛も無い会話、ふいに胸が締め付けられる。…だから寂しくなんてない、こういうのマジでやめて欲しい。
しかし、そんな私を更に刺激させる存在が背後からやってきて。
「やぁ!今帰り?」
「……。」
出たな。私は口を利く事もなく、瞳を尖らせ目で彼を追い払い、歩く速度を上げツカツカ
を歩く。
しかし、案の定懲りず追っかけてくる彼。
「ついて来ないでっ!」
「どーしたのさ!?何かあった?」
「はぁ?昨夜あんな事をしておいて良く言うわ!」
「あんな事?……。俺は、君の事を。」
「人を口説かないでくれる!?私、こうみえて人妻何ですケド!」
「長谷川絆の事か?」
「!?」
親しい人の名前が急に挙がった。あぁコイツにだけは知られたくないのに。
「…やっぱり、彼氏、だったんだ…。」
「……。」
人の領域に土足で入りこんで。彼はそのまま口を閉だす事なく、話し続け。
「メルヘンチックだねー、亡くなった恋人を今も想い続ける何て。」
コイツ、何で知ってる?という顔を瞬時に見破られクラスの人から聞いた、と説明され。
「でも言っちゃあれだけど、そんなのは所詮恋愛小説だけどの事、現実じゃー中々そうはいかない。」
「……。」
陽気な彼が悪魔に見えてきた。
「悪い事は言わない、彼の事は忘れ、新しい恋に走ろうじやないか。」
「なっ!」
「これは君を思っての事で、別に彼を忘れろとは言わない、ただ君を救いたい、もうあんな泣き顔、見たくない。」
「………。」
何を解りきった事をっ!ホント腹が立つ、コイツにも、そしてコイツの言う事に真っ直ぐ否定が出来ない自分自身にも。
コイツの言ってる事は皮肉にも正論、ほぼ全問正解だ…。
嫌味を言われている筈なのに、そうでないような実に不思議で、もどかしい気分。
いや、しっかりしろ私。そんな言葉に乗せられるな。私は絆が好き、確かに寂しいけどだからって他の男に乗り換える…何て、絆を…いえ私自身がそれを許さない。
「俺は本気だ、君の幸せの為にも…、杏。」
頭に血が昇り、うっとおしく接近する彼に。
「!?」
強烈なキックを顔面擦れ擦れで止める、目は親しい人を侮辱した鋭い瞳。
その脚を地面にゆっくりとつけ、静かな怒りの炎を灯し、落ち着いた口調で言い返す。
「誰が下の名前で呼んで良いっつった?」
「……。」
「解ったような口を聞くなっ!……確かにアンタの言う事は正しい、私は確かに寂しいし
アンタを一瞬彼の代用品にしようと思った……。ケド!それが何?だからって彼を私の大好きな絆を裏切る何て出来ない、どこぞの素敵な恋愛小説のように空想に浸っていようと構わない、寂しい?そんなの乗り越えて見せる!アンタ何かに頼らなくたって、私には菫やお母さんだっている、ううん!男に癒されなければどうにもならない事なんてないっ」
溜まりに溜まった思いを全てぶつける、そうだ…私は…私は。
彼、長谷川絆が大好き!世界中の誰よりもっ!!
遥か高い大空の上にいるであろう彼に向かって愛の言葉を叫び。
「……。」
私の勢いに、すっかり先ほどまでの減らず口が静まり。
「もう二度と私に関わらないで…。」
氷柱のように冷たく鋭い言葉を投げ、彼に背を向けると。
「あーあぁ!酷い男だよなぁ、君を置いて一人旅立つ何て…。」
「!」
「今時絵何かにのめり込んで、心も体もひ弱な野郎何かを愛して、女って奴はどーしてこうも駄目人間を愛してやまないっ」
天国の彼を信じられない程悪く言う彼の頬を思いっ切り引っ叩き。
「これ以上嗅ぎ回ったら…もう二度とそのふぬけた笑い顔が出来ないようにしてやる。」
「……。」
赤く染まった頬を片手で押さえ、戦意喪失する。
「今度こそ本当に、さようなら……。」
そうだ
私は甘えない
天国の彼との約束の為にも
こんな奴
乗り越えてやるさ、菫だっている、お母さんだって
そして彼だって……。
次回、18話に続く。