音楽―後編―-1
「…隼人…?」
光はやがて隼人の姿を現した。変わらない笑顔。由香は確かめるように手で顔をなぞった。
髪の毛、おでこ、まゆ、目、鼻、口、ひとつひとつ丁寧になぞっていく。まだ不信に思う由香の手を取り、隼人は言った。
「僕だよ、由香。」
由香の右手の中には隼人からの手紙があった。由香の左手の中には隼人がいる。
少しの間だけ止まっていた涙もまた込み上げてきた。
「は…やと…っ!」
両手で隼人を掴み、離れないようにしっかり握った。もう二度と手が届かないと思っていた愛しい人を由香は必死でつなぎ止める。
隼人はもう一度しっかりと由香を抱きしめた。
「由香…由香、泣かないで。僕はきみを泣かせるために戻ってきたんじゃないんだ。」
由香は必死にしがみつく。隼人はやさしく由香の背中をなでた。少しでも由香が落ち着くように、隼人は何度もやさしくなでた。
「由香。ねぇ、笑ってよ。僕は由香の笑顔が好きなんだ。」
隼人は両手で由香の顔を包み、自分の方にむかせた。涙で潤んだ瞳は隼人をとらえる。いま確かに、隼人は目の前にいる。
「由香、言ったよね?ずっと歌い続けるって、僕に届くように歌い続けるって言ったよね?」
由香はゆっくりと頷いた。隼人はほほ笑み、そっと由香の額にキスをする。
「聞こえないから心配したよ。由香、どうした?…ずっと待ってるんだよ?」
「歌え…ないっ!」
悲痛の叫びが隼人を襲う。
「隼人がいないと何もできない!淋しいの…辛いのっ!」
「由香…。」
「連れてって…隼人。」
目に涙をいっぱい溜めながら由香は叫ぶ。今の気持ちを、この胸いっぱいの想いを隼人にぶつける。隼人は自分の耳を疑った。
「由香?」
「私も連れてって…。そこに連れてってよ!」
「何言って…!」
「隼人と一緒にいられるならどこだっていい!隼人がいるなら…それだけで…っ!」
由香は隼人を離さないように胸のなかに飛び込んだ。気持ちが高ぶって言葉にならない。ただ名前を呼んで想いをぶつけることしかできなかった。
隼人はそんな由香を自分から離し向き合わせる。隼人と、そして現実に由香を向き合わせなければいけない。それができるのは隼人だけだった。