音楽―後編―-2
「由香、今のは言っていい事じゃない。」
由香は首を振り、隼人に抱きつこうとした。だが隼人はそれを止めた。
「聞くんだ、由香。」
由香の涙は止まらない。隼人を見ることもできずに、泣いていた。
「由香、僕はもうこの世にはいない。もう…一緒には生きられないんだよ。」
「聞きたくないっ!」
「由香、言ったよね?生きるって、僕の分まで精一杯生きるって。」
由香は首を振って隼人の言葉を拒もうとした。もう声にならない程、胸がいっぱいだった。
「由香、生きてよ。…僕の分まで生きてよ!頼むから!」
隼人の声が震えているのに由香は気付いた。落ち着きがなかった体は静まり、ゆっくりと隼人を見る。
「僕だって…くやしい。」
「隼人…。」
「僕だって悔しいよ!もっと生きたかった!もっときみとの未来を…っ!」
隼人の本音が由香に突き刺さる。一番辛いのは隼人、一番悔しいのは隼人、一番泣きたいのは隼人だった。隼人は今の自分に正直に涙を流す。とても静かで、深い想いがそこにはあった。
「でも、それはもう…どうしようもできない事なんだ…僕はもう…死んでしまった。」
由香はゆっくり首を横に振り、それ以上の言葉を拒もうとした。自分は生きている、それは確かな事実。
「由香、きみは生きている。限りある命でも、まだ限りは見えていない。きみの未来には無限の可能性があるんだ。」
「隼人…っ!」
「自分の思うように生きて幸せになって。笑っていて欲しい。」
隼人の表情は穏やかだった。まっすぐに由香の目を見て話す。彼の言葉は染みるように由香の中に入り込んできた。
「由香、生きて。生きていく勇気を見せてよ。未来を僕に祈らせて。」
「隼人…っ!私…っ!」
「…約束して?」
隼人は由香の両手を自分の両手で包み込み、おでこをあわせた。二人の距離は近い。
隼人の切なる想いが由香に届く。由香は静かに目を閉じて、隼人の目を見て言葉にした。
「…約束する。私は…生きることを諦めない。」
由香の目はごまかしではないことを隼人に伝える。どちらともなく微笑み、そしてキスをした。
ささやかなキス。永遠にも思えるような時間だった。
「ありがとう、由香。」
やがて隼人の姿がゆらぎ始めた。体が光に戻りつつある。