断ち切って…-4
芝生の上で、絵の具や画板を広げ、画用紙からは目の前に見える公園の風景画の描きかけが見え。
加藤君、伊藤サン。彼の遺臣…大袈裟か。あれから美術室は加藤君が跡を継ぎ部長へと就任し、新しい部員もまだ少しダガ増えてきたそうで、良かった…。
亡くなった彼が愛して止まなかった美術室。後輩達が今も挫けず元気で部活動を行い、ずっと願っていたこの二人以外の新しい部員の加入。
もう会えない彼の願いが叶い、ニコッと笑みを浮かべる私、きっと天国で微笑んでいるだろう…。
どうやら加藤君がこの公園を見て感動を覚えたらしく、伊藤サンも誘ったそうで。
「そうなのよ、加藤君…しつこくて。」
「いやいや、君からついて来たんでしょ?」
相変わらずのテレパシー、この二人は付き合ってるのか?フンまさかね、異性で付き合えばそれイコール脈ありとか…。
「それと、何勝手に殺してるのよ……。」
「えっ?」
「…部長はまだ死んだ訳ではないでしょ?葬式は行われたって言うの?」
「ちょ、僕は死んでないっ」
「五月蝿い!ちょっと黙ってて。」
「はい…。」
伊藤サンは生前から絆の事を『部長』と慣れ親しんでいて。
「部長…、長谷川先輩はまだ死んで何かいないでしょう。」
「伊藤、サン…。そうね、でも彼は今病院に居るのよ、持病で二度と太陽の光を浴びる事なく、そのまま病院で骨を埋める。家族にも見捨てられ無論助かる方法何てない。」
「……。」
加藤君が急に私の話を聞いて、顔を強張らせ、草に視線を逸らす、何?。
「それは、もう…死んだの同然、そうでしょ?」
「そ、それは…。」
まさか伊藤サンに隠してきた傷口を広げられるとは、何か菫っぽい。
この日も変わらずジョギングや犬の散歩に精を出す中年達。
「だからって、そんな風に思って良い訳?まだ死んでもない人を、一番彼を愛していた貴女が、そんな。」
「愛しているからぁ!そう思うのっ!」
「!!」
解ったような事を!、つい声を張り、目をパッと見開く伊藤サン。
「……仕方が無いでしょ!?もうどうする事も出来ないんだからぁ!」
「織原…サン。」
「観覧車に二人で乗った時、彼、私に言ったの。「僕が居なくなっても君はずっと笑っていてくれ」って…。」
「……。」
「だから絆の事は忘れ、私らしく明るく元気に生きる、それじゃー駄目な訳?」
彼が生前親しんでくれた人に対してなんちゅー攻めよった言い草を、ダガそれに参ったかのように、眉を潜め芝生に視線を落とし、弱い声で。
「御免なさい、私、そこまで考えてなくて…。」
「伊藤サン…、いいよ解ってもらえれば。私こそ怒鳴ってゴメン。」
これで一応収まったか、しかし私にはまだ疑問点が。どうにも落ち着きがない加藤君を見つめ…。
「ねぇ、何か知ってるの?」
「…えっ!何かって?……。」
伊藤サンも同じなようで、私と共に視線を向け。
「だって、私が話をした時、急に目を背けたジャン。確か私が彼はもう助からない。」
「別に何も知りませんよっ!失礼ながらちょっと神経質になりでは?」
「……。」
何か怪しいな、でも今は深入りする気にも慣れず。
「顔くらい、出してあげたら?」
「へっ?」
「気持ちは良く解ったわ、でも会った方がいいよ。」
「伊藤サン…。」
「寂しい、じゃない…このまま家族に見捨てられその上最愛の人にまで会えない、何てそんなの、あんまりじゃない。」
「……。」
二人は二人なりに色々と考えて居るのだろう。私と同じようにどう向き合うかを。私はそんな二人を後にし、公園を出ようとしたその時、ある物が目に浮かんだ。
「このお花サン、折れてる可哀想ー。」
隅っこに咲く一輪のタンポポ、それが見事に曲がって折り、それを見つけた親子が立ち止まっているようで。
「じゃーこのこれを、こーすれば。」
そんな子供を見兼ねた母親が、街頭などで配られる手の平サイズのチラシをちぎり、それを折れた花に結びつけ。
案の定歓喜の声を挙げる子供。
私はこの光景に見覚えがあり、ふいに彼との優しい思い出が走馬灯のように想い返し。
もう、駄目だ…。
私の足が、本来の目的地へと別のほうへ赴き。