愛しいお姫様-1
恥ずかしさで小さくなって座っているジェノビアの前に夜食を並べたデレクシスは、彼女の向かいの席に腰をおろした。
「さ、食べよう?」
「……はぃ……」
ジェノビアは元気なさそうにもそもそと夜食を口に運ぶ。
「疲れただろう?成人式は人生の一大イベントだからね」
デレクシスがそう声をかけると、ジェノビアの肩が小さく震えた。
「ジェノビア?」
「うぅ〜っ!もう限界ですっ!!」
テーブルを蹴倒す勢いで立ち上がったジェノビアを、デレクシスは呆気に取られた表情で見上げる。
「折角頑張ってみたけど、私にはまだ無理です!」
「何がだい?」
「私は、まだ大人にはなれません」
ジェノビアは肩を落として椅子に座り込んだ。
「折角、ご招待したのに……お恥ずかしいです」
大人になった所を見せたかったのに、最後の最後で失敗してしまった。
ついさっきまでデレクシスをオカズに自慰をしていたので、本人が来て大慌てしてしまったのだから無理もない。
「それで今日は様子がおかしかったのかい?」
必死に大人を演じていたのに、おかしかったとか言われてジェノビアはへこんだ。
「きちんと淑女らしくする為に無理してた?」
デレクシスの言葉にジェノビアは小さく頷く。
「……なぁんだぁ〜」
デレクシスは大きく息を吐き、頭を抱えてテーブルに突っ伏した。
「お、おじ様?」
「遅刻しちゃったから怒ってるかと思ったよ」
「いいえいいえ!おじ様がお忙しいのは承知してますもの!」
「でも、魔法のシャワーにはそんなに喜んでくれてなかったみたいだし」
「そんなっ!素晴らしかったですわ!繊細な魔力操作に感心しましたし、とても綺麗で感動しました!」
ジェノビアは力が入り過ぎて持っていたサンドイッチを握り潰す。
「本当かい?」
デレクシスはそろっと目だけを上げてジェノビアを見た。
「はい!」
勿論です!とジェノビアはサンドイッチを握ったまま頷く。
「そうかぁ〜良かった」
デレクシスは身を起こしてジェノビアに微笑んだ。
「おじ様おじ様〜っていつもみたいに来てくれないから不安になっちゃったよ」
デレクシスの言葉にジェノビアはしゅうんと項垂れる。