想いを言葉にかえられなくても《アラベクス》-12
「う〜っ。聖っ…」
「え?あっ…泣くなよ。っつーか、どうしたんだよ苺?」
慌てて苺を抱き締める。素肌の胸が涙によって冷たい。
「う…嬉しくて。聖が…頭撫でてくれるの……嬉しくて」
途切れ途切れの言葉が胸に染みる。
……苺は今でも俺を好きなのか?俺、少しは自惚れても良いのか?なぁ…。今、俺達は同じ気持ちって考えていいんだよな?
「聖……聖っ……」
「苺…。す…好き、だ…」
ドラマの台本なら上手く言えるのに。どもってしまった。
「…うん。」
顔がほてる。これが偽りのない自分かと思うと妙に恥ずかしくなる。
「い…苺は?」
「……好きじゃなかったら、ここに居ないよ」
ぶわっと胸が熱くなる。……なんだろ。馬鹿だな…俺……ずっと……こんな所で立ち止まっていたなんて…
「好きだ……。苺…ずっと一緒にいよ…」
絞り出した言葉。
『約束』が果たされた瞬間だった。
………………
「ちょっと、聖!早く起きないとマネージャーさんが来ちゃうって」
ぐらぐらと頭を揺さぶられる。眠い目をこすり、顔を上げると苺がいた。
「なんか……長い夢をみていた気がする…」
ギュッと苺を抱き締める。小さい身体は俺の腕にすっぽり収まる。
「何アホな事言ってんの…。ほら早く着替えて」
あの『約束』から六年、そして更に二年が経った。苺とは入籍を済ませ、一緒に暮らしている。
一時は週刊誌を賑わしたが、今はもう落ち着いた。
苺がそばにいる。それだけで凄く幸せ。何も言えなった、あの頃。不器用だった俺達。
…だけど今は違う。何も言わなくても繋がっている。だけど喧嘩をする時も擦れ違う時もある。そんな時に想いを言葉にたくす。
あの頃の様に、想いを言葉にかえられないんじゃない。勿体ないから…かえないんだ。
……そう。想いはずっと永遠に変わらない。
終わり