可愛いお姫様-2
成人式の特別招待状を眺めながら、年を取る筈だなあ、とデレクシスはしみじみ思う。
産まれた時から知っている女の子が成人……改めて自分の年齢に気づき、微妙にへこむ。
しかし、落ち込んでいる場合ではない。
彼女の晴れ姿をちゃんと見る為に、きちんと仕事を片付けなければならないのだから。
「馬っ鹿じゃねぇっすか?」
ファンへと急ぐ空の下、側近バートンの息子テオドアがさも馬鹿にした口調で言い放った。
「ああ、うん……馬鹿かも」
彼女に贈る珍しい鉱石を、クラスタの黒海まで捜しに行っている間に、出発時間を大幅に過ぎてしまったのだから馬鹿と言われても仕方ない。
しかし、粘ったおかげで良い鉱石も採れたし満足いく加工も出来た。
彼女が喜んでくれる事間違い無しだ。
ただ、この贈り物は成人のお祝いなので、遅刻のお詫びと一緒にしてはならない。
彼女が喜びそうな事を何か別に考えなければ、とデレクシスが頭を捻っているとテオドアがパチンと指を鳴らした。
「到着するのはちょうどガーデンパーティーくらいっすよね?だったら、派手に登場するってのはどっすか?」
「派手にねぇ……」
あまり目立ちたくはないが、ジェノビアが喜んでくれるなら派手に仰々しく登場しよう。
デレクシスはいつも持ち歩いている魔法の鏡でファンの魔法学園学長魔導師に連絡を取り、協力してもらう事にした。
学長魔導師の精霊が吐いた炎を花に変えてお祝いのシャワーにする、という魔法は大成功だった。
空から見たジェノビアの表情もキラキラしていたし、喜んでくれた筈だ。
いつもの様に中庭に降り立ち、いつもの様に彼女が駆け寄ってくるのを待つ。
彼女はいつも息を切らして走って来て、一番に歓迎してくれるのだ。
その時の屈託の無い笑顔がデレクシスは好きだった。
急ぎ過ぎてあちこち絡まった髪の毛とか、ちょっと乱れたドレスなんか堪らない程可愛い。
今か今かとソワソワしていると、鈴を鳴らした様な声が響いた。
「おじ……デレクシス様っ!」
きたっ。
「ジェノビア」
振り向いていつもの様に大きく腕を広げたデレクシスだったが、彼女はいつもみたいに腕に飛び込んで来てはくれなかった。
代わりに、優雅に貴婦人の礼をしてきたのだ。
そうだ、彼女は成人を迎えたのだ。
いつまでも子供扱いは失礼になる。