交換日記-1
「このドロボウ猫っ!」
「あらやだ奥様。あの人から私を誘ってきたのよ? それなのにドロボウだなんて……」
水曜日のお昼時。ドロドロの愛憎渦巻くドラマが放送されている時間帯。なのに俺は未だにベッドの上で寝転がってる。
成績が中の中で、スポーツが他人よりちょっと出来るだけの、何処にでもいるような高校生。
そんな普通過ぎる俺が何故平日にも関わらず暇を持て余しているかと言うと、昨日停学処分を受けたからだ。因みに理由は喧嘩。って言っても、同じ学校のやつがカツアゲされてる現場に出くわして、それを救ける時に一発相手の顔を殴っただけだ。それだけで今週いっぱい自宅謹慎プラス反省文。まあ相手に放った右フックがかなり良い感じに入ってしまって、歯を一本折ってしまたんだけど。
暇だ。本格的に暇だ。一人で家に居てもやる事なんて全然ありゃしねえ。もってるゲームも全部やり尽くしてしまったし。寝返りをうっても何も起きやしない。
このままぼーっとしてても時間の無駄なので、適当に着替えて家を出る。自宅謹慎とか言われて真面目に家の中に居る奴なんてそんなにいないと思うのは俺の勝手な想像なのだろうか。取り敢えず家を出る為に靴を履く。
コンビニで適当に立ち読みして、適当にジュースを買って、やっぱりやる事が無いのでさっき買ったばかりの炭酸飲料を飲みながら家に帰る。
その帰り道、真っ昼間にも関わらずめっちゃ盛り上がってる猫の情事を目撃した。
有り余る余暇は人をやたらと暴力的にするのか、はたまた純粋に畜生の生殖活動がムカついただけなのか、兎に角俺は、二匹の猫目掛けて中身の少し残ったペットボトルを投げつけた。フギャーだかノギャーだか判らない悲鳴を上げて、奴等は走り去って行った。
その場に残ったのは自分のコントロールに満足する俺と、猫達が布団代わりに使っていた一冊の厚めの帳面。
近寄って手に取ってみると、表紙の上の部分に‘Diary’と綺麗な筆記体で書かれた文字があった。
日記。そう悟った瞬間、俺の中で黒い俺と白い俺の壮絶なバトルが幕を開けた。
『早く開けて、中を見てみましょうよ』
紳士的な黒い俺が囁く。
『他人のモノを勝手に覗くんか、お前は?』
ヤクザ風味の白い俺の言葉。
『中を確認して、もし何も書いていないのであれば、環境のためにも私達が持ち帰って有効に利用するべきでしょう』
そうだな。地球のためにもゴミは再利用しなくちゃいけないしな。
『人に見られたくない事が書いてあったらどうするんだよ!』
確かに……俺も他人に知られたくない秘密の一つや二つ、三つや四つ。あれもヤバいなぁ。そういやあれも……