交換日記-5
『からだ動かすのなら何でも好きですよ。走るの好きだし、バレーとかバスケとかも』
『おれはやっぱりサッカーだな。今日の授業もサッカーだったし』
そういう訳で、最近は寄り道もしないで真っ直ぐ家に帰って、彼女と話している。
『わたし、サッカーのオフサインでしたっけ? あれがよく判らないんですよね』
『オフサイドだろ? 教えて欲しい?』
ただ、正直言うと、わざわざ字を書くなんてめんどくさい。
『是非お願いします』
『簡単に言ったら待ち伏せ禁止のルールだな。相手の最終ディフェンダーより相手のゴールに近い所、オフサイドポジションって言うんだけど、そこでパスをもらったら反則になるんだよ』
だけど、彼女との接点はこの日記帳だけだし、彼女とは生きている時代が違うから、たぶん携帯電話とか他の方法で会話なんて出来ないと思う。
『結構細かいですね』
『もっと細かいぞ? オフサイドポジションに居た瞬間にパスが出て、それをオフサイドポジション以外で受けても反則になるんだ。それに真横のパスとか後ろへのパスだとオフサイドポジションでもとられないようになってる』
時代が違う、っていってもたった一年なんだけど。彼女のほうが一つ年下で、俺と同じ生まれ年。本当に不思議な事だけどここまできたら一年や二年のズレなんて、大して何も思わない。こんな風に会話出来ることに比べたら。
『ほんとだ。細か過ぎ……何でそんなに複雑にするんでしょうね』
『俺に聞かれてもなあ……』
その後も二時間ほど、どうでもいいようなことを話した。帰る途中で百五十円を拾った事。その金でジュースを買った事。そのジュースのペットボトルを使って、またまた猫の性行為を邪魔した事。
そろそろ手が痛くなってきたな。
『そろそろ七時だからまた明日な』
最後にそう書いてノートを閉じた。
俺も彼女も、晩飯を食い始めるのが七時。彼女の就寝時間が八時だから、いつもこの時間帯に会話を終了することにしている。
「まさとー! 飯だぞー!」
母さんが叫んでる。行かないと飯抜きになるし、さっさと食いに行くか。
俺の先祖は、火曜日に何か悪事でもはたらいたのだろうか。
「久しぶりだな、兄ちゃん」
山の向こうまで見えるこの曇り空は今の俺の心情を的確に表している。
「この間はどーも」
此処はあの日記帳を拾った場所。