交換日記-3
赤の他人の日々を記した帳面を完読すること。我ながら最低だとは思う。思うんだけど、他にいい暇潰しが思い浮かばないし、一度見たなら何度見ても一緒でしょうというブラックの甘い囁きにのってしまったからだ。
読み進めて行くうちに、日記の主の事が結構分かった。
高校生である事。もう半年近く、病院で生活している事。始めはよく見舞いに来ていた友達も、最近はあまり遊びに来ない事。
『9月26日火曜日』
一番初めに見たページまで読み進めたらしい。そのページの最後には俺が書いた、友達になってあげますよ宣言がある。高校生にもなって何書いてんだよ。と、自分の変態的な行動に苦笑いする
……筈だった。
今、俺の頭の回りを羽を生やした天使か、漫画みたいなお星さまか、もしくはその両方かが飛び回っているに違いない。何故なら、
『あなた、誰ですか?』
そう書かれていたからだ。
ベッドから落ちた。背中と左腕の神経が痛みを訴えた。意識をそちらへ持って行かれそうになったが、無視をして思考を日記帳へと傾ける。
予め書かれていた筈がない文字。しかもそれはどう考えても俺に対する反応。
日記帳を眺めていた俺を再び恐ろしい現象が襲った。
『超能力者? それとも幽霊さん?』
さっきの文章の下に、ゆっくりと浮かび上がってきた文字。
早まる心臓の鼓動を抑えるように、胸に手を当てる。
落ち着け。
何度も胸の内で繰り返す。
あってはいけない非現実的な現象。だけど現実に目の前で起こっている以上、これは非現実ではなく確かな現実であって、否定せずに受け入れるべきだ。
『残念だけど超能力者でも幽霊でもないよ』
驚きはあったが、不思議と恐怖は感じなかった。あっちから幽霊かどうか尋ねてきたという事は、相手は普通の人間である可能性が高い。字の感じからすると恐らくこの日記帳の主。それが一番の理由だろう。
『こんにちわ。え〜、今すごく驚いてます。これってどういう事なんでしょうね』
何故こんな事が起こっているのか。それはこっちが聞きたいくらいだ。でも、それは細事であって大事ではない。
『どういう事かなんてどうだっていいよ。今俺はノート越しだけど君と会話している。そして俺は君の話し相手になってあげれる。メル友みたいな物って思ったらいいさ』
さっきからブラックが頻りに耳元で囁いてくる。絶好の暇つぶしを逃してはいけません、と。
その通り。やはりブラックとは気が合う。人間暇には勝てん。