交換日記-2
『そんなに大切な事が書いてあるのならば、このような所に放置することも投棄することもしないでしょう。百歩譲って書いてあったとしても、このような所に置いておくという事は、より多くの人々の目に曝されるという事になるのですよ? それに、もし住所などが書いてあれば、持ち主の家に届けてあげる事も出来るのでは?』
感情的な白い俺の言葉とは違い、黒い俺の言う事は正論ばかりだ。
『……せぇ……』
ん? 何か言ったか?
『どうかしましたか?』
『いちいちうるせえんだよ! 手前は!』
あ、キレた……
いきなり殴り掛かった白い俺(以下ホワイト)。流れるようなスウェーでかわした黒い俺(以下ブラック)。のけ反って不安定になったブラックの足を払いにいったホワイト。避け切れないと思ったのか、自分から足を浮かせたブラック。激しく転倒するが、直ぐさま起き上がって左の膝で反撃する。腹を押さえてよろめくホワイト。ふらついたままブラックの懐に入る。油断したのか、手を出さない。そこへ力を溜めていたホワイトの渾身の左ストレートが襲う。
勝った。それがホワイトの最後の思考だった。ブラックのカウンターの右フックがホワイトの顎を打ち抜いていたのだ。膝から崩れ落ちるホワイト。やはり決め手は右フックか……
悪は必ず勝つ。普通の少年少女が抱く理想からは掛け離れているような気もするが、俺の中ではこれが絶対の真理だ。
という訳で、家に到着。早速拝見。
『9月26日火曜日』
冒頭がこんな感じだから日記って事で決定。一瞬だけホワイトが復活しかけたが、再びブラックが全体重を乗せた渾身のロング右フックで鎮圧した。
取り敢えず一番最後に書かれた所から読み始める。
『あ〜あ、暇だなぁ〜。今日も誰も来てくれなかったし……誰でも良いから友達来て欲しいなぁ……』
今日って水曜日だったよな。日記だから今日の日付な訳ないか。
何と無く、本当に何と無しに
『俺が友達になってあげようか?』
欲しいなぁ、の後にそう書いてみた。少しだけこの子が可哀相に思えたから。
阿保らしい。暇過ぎてついに変態になってしまったか。
ノートを閉じてベッドに身を投げ、目を閉じる。
チッ…チッ…チッ……
規則正しく響く秒針の独唱。虚空に取り込まれていく旋律。来たる待望は牛歩が如く、交わる刹那は宝珠が如く、過ぎたる後は脱兎が如く。一度過ぎ去った時は二度と戻らない……とか詩人振ってみたり……
やっぱり暇だ。人間暇な時は徹底的に暇だ。寝返りをうっても、変わるのは両目に映る見慣れた部屋だけ。
有り余る余暇は人をとことん醜くさせる。暇を極めた俺の頭が求めたものは、
『7月13日木曜日
今日のお天気はびみょ〜。明日は晴れるといいのになぁ』