邪悪な教師と生徒-1
夏休みが間近に迫った7月中旬の放課後。3年C組の児玉保昭は、教室を出たところで、生活指導担当教諭である光原滋郎に呼び止められた。
白髪混じりの頭から、ポマードの強烈な匂いを発している。光原教諭には黒い噂があった。二年前に新任女教師を強引にホテルに連れ込んだ噂だ。
「児玉君、君は写真部の部長だそうだが、近頃、写真部は活動しているのかね」
「ええ、ばりばりやってます。部員は少ないですが、充実してますよ」
「ほう…どのような活動をしているのかな」
「どのようなと言われましても、ふつうに、校外の風景写真とか、クラブ活動に熱中している生徒を撮ったりしています」
「それだけかな? 実は、女性教師を盗撮しているとの投書があった。佐伯先生を盗撮しているのか」
「な、何をおっしゃいます。盗撮なんかしてませんよ。濡れ衣です」
児玉はシラをきった。
「そうかな…。嘘はつかなくていい。佐伯先生を撮りたくなる気持ちはわかる。しかし、他の生徒たちに見つからないようにやりなさい」
「いや、その…悪気あって、教師を撮っているわけではなくて…つまり…美意識です。美しい女性を撮りたい。自然な欲求です」
児玉がそう言うと、光原の口もとが緩んだ。
「ごまかさなくてもいい。これからも佐伯先生を撮りなさい。彼女を追い続けて、何かわかったら教えてほしい」
「何かと言いますと…」
「佐伯玲奈のプライベートだよ。彼氏の存在とか、玲奈自身の秘密とかね。学校内では知られていないことがわかったら、知らせてほしい。児玉君、悪いようにはしないから…。君も佐伯玲奈に気があるんだろう」
「ま、まあ、そうです。光原先生も佐伯先生がお気に入りですか」
「そうだな。彼女のことは気にかけている。悪い虫が彼女につきそうなら、追い払いたいね。そして…いや、なんでもない。とにかく児玉君、佐伯玲奈に関する情報があれば頼むよ。謝礼ははずむから…」
「わかりました。何かあったら報告します」
口元と目に薄気味悪い笑みを浮かべていた光原滋郎は足早に去っていった。
光原の奴…もしかしたら、佐伯玲奈を狙っているのでは?
白髪混じりのジジイに玲奈が靡くはずもないが、用心しなければと思った。