美しき女教師-1
三鷹聖徳高校は、かつては不良の溜まり場と呼ばれていた私立の男子校だ。だが5年前から粛清の道を歩み始めた。理事長になった尾上鉄之助の理念によって、厳罰化が推し進められて、不良たちは学園から一掃された。
その後、大きな問題もなく、2011年の初夏を迎えた。
佐伯玲奈は、一年ほど前に聖徳高校に就任してきた音楽教師だ。24歳という若さゆえ、生徒の気持ちをかき乱すのではないかと、校長や理事長は案じたが、情熱あふれる指導で、生徒たちから信頼されるようになっていた。
7月中旬の放課後のこと。佐伯玲奈は、二年生の梶野和也とふたり、音楽室で演奏をしていた。ロベルト・シューマンの「幻想小曲集」のレッスンだ。玲奈がクラリネットを吹いて、和也はピアノを弾いた。
秋に開催される市民音楽祭のクラシック部門に、師弟で出演することが決まっていた。聖徳高校のイメージアップを図りたいという学校側の思惑も絡んでいるようだった。玲奈は、そういった思惑とは無関係に、愛弟子の和也と一緒にステージに立てることが嬉しかったのだ。