とある日常【悠久の王・キュリオ】編 アオイの初めてXU-1
「あぁ、あいつら賢いからな・・・俺が嫌ってるやつから喰い始めるんだぜ?」
女たちを見下す青年の口調は鋭さを増していくばかりで、その切れ長の美しい真紅の瞳は危険な光が宿り・・・タダものではない巨大な威圧感が辺りを包んだ。
「・・・な、なに言ってるのよ・・・そんな言い方・・・ま、まるであなたが・・・」
「俺が?なんだ?言ってみろよ」
「・・・ヒィッ!!」
青年が一歩踏み出すと、女神たちは悲鳴をあげて後ずさる。
遠巻きに傍観していた者たちが何事かと不思議な目を向けていた。
すると、青年の胸元で怯えていたアオイの頬を冷たい風がなでていく。
はっとしたアオイがまわりに目を向けると・・・
その冷気は男自身から発せられているものだと気が付いた。
「下品な鬼の瞳は血のように紅く・・・
その背には夜をうつしたような漆黒の翼があるそうだ」
男はアオイの背にまわしていた右手をゆっくりと頭上にかかげ、そのまま下におろす。と、同時に強風が吹き荒れ青年の背中から大きな漆黒の翼が姿を現した。
「キャアアアアアァアアアッ!!!」
絶叫をあげ勢いよく倒れた彼女のまわりを取り囲むように数人の付き人たちが慌ててかけよる。
「いかがなさいました!?女神様がた!!」
顔をあげた葵が卒倒した姉女神たちをみやると、彼女ら以外の人間は一連の動作を首を傾げて眺めていた。
「お兄さん何をしたのですか?」
自分の目からみても何が起こったかわからない葵は少し上にある優しい男の顔を見つめている。
「あいつらに少し仕置きをしたまでだ」
フフンと鼻をならした男は得意げにウィンクしてみせた。
「お、鬼が・・・ワイバーンが・・・」
「お気を確かに!!妹女神様!!!」
「ウーン・・ウーン・・・」
ざわめきたつ外野の人間たちは、だらしなく足を広げて倒れた女神たちの品のなさに幻滅したように声をひそめて悪態をついている。
「アオイに怪我をさせたんだ、幻を見せられただけで済んだのを幸運に思うんだな」
「幻?幻で何を見せたのですか?」
「・・・本当の俺をちょっとな」
「?お兄さんの本当の姿をみて皆さん驚かれたということですか?」
あどけない視線を青年に向けてアオイは首を傾げている。
「そうだ。お前もどうだろうな・・・俺の本当の姿をみてああならなるかもしれないな」
わずかに寂しそうに視線をさげた青年の顔を覗き込んで、アオイは懸命に首を横に振っている。
「絶対にそんなことになりません!姿が変わったからといって、中身はお兄さんのままでしょう?」
「・・・あぁ、そうだな」
驚いたように目を丸くした青年はやがて嬉しそうに微笑み、腕の中の小さなアオイの額に唇を寄せた。
「好きだぜアオイ」
くすぐったそうに目を細めるアオイに青年の囁きは聞こえず、その足は緩やかにキュリオの待つ王宮へと歩き出した。