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LOVE AFFAIR
【アイドル/芸能人 官能小説】

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10.知らずに上がった舞台-1

10.知らずに上がった舞台



「バッカやろっ、死ねっ!」
 竜二が出口にあったスタンド式の灰皿を蹴っ飛ばすと、上蓋が派手な音を立てて転がった。うるさいなという表情で粗暴の主を向いた老人と目が合うと、
「あ? ジジィ、なんだ? 何か言いたそうだな、おい。ぶっ殺されてぇのか?」
 と向かっていく。老人が暴力を恐れて逃げていくのを、
「おい待てコラ。お? 待てよっ」
 走って追いついてやろうとしたその腕を健介が掴んだ。
「……やめとけやめとけ。あんなジジィ、一円にもならねぇよ」
 竜二は唾を路肩に吐いてタバコに火をつけた。煙を何度吐き出しても気分は落ち着かない。返済の滞っていたキャバクラ勤めの女に、追い込みをかけにきたところ行方をくらまされた。店長にいくら詰め寄っても、もう何日も無断欠勤が続いているという以上の情報は得られなかった。
「おい、……来週までに200だぞ、200。どうすんだ? まさか給料日よりも前に飛びやがるなんてよぉ……」
 忙しなく煙を吐き続ける。返済日を過ぎた債務者が行方をくらますと、ほとんどの場合見つけることはできない。返済の目処が立たないことに絶望して命を断ってしまう場合もあるし、こういった女は大抵は別の闇金融にも借金を作っているから、そちらの取立屋に身を拘束されたのかもしれない。同業者に先を越されてしまうことは彼らの雇い主から見れば大きな落度となるため、竜二たちにとっては後者の方が深刻だった。債務者は手に入る金には執着心が異様に強いため、行方をくらますにしても勤務先の給料日以降であると践んで油断していたところへ裏をかかれてしまった。
「200かぁ。今度はボコられるだけじゃ済まねぇな」
 隣に並んで健介もタバコを吸い始める。
「こんなことなら、とっととお前の店に落としておけばよかったぜ」
 健介は違法風俗店の経営も任されている。かつては竜二も別の組で風俗店を経営していたが、警察のガサ入れに遭い、売春の斡旋によって実刑となり3年服役した。出所後、暴走族時代の仲間であった健介を頼って、同系組織の闇金融の運営メンバとなった。彼らに課せられるノルマは過酷で達成できなければ厳しい制裁が待っていた。ましてや回収不能となれば、どんな手段を使ってでも補填しなければ我が身が危うくなる。焦げ付いた債務者は男ならば強制労働、若い女ならば風俗に身を堕とさせて返済させる。今回のキャバクラ嬢にしても、20代でそこそこ見れる外見であったから、今回の返済でギリギリまで徴収して、そのまま健介の風俗店で働かせる目論見があった。
「家にもいない。店にも出ていない、っつったら、やっぱ飛んだ、っつーことだろうなぁ。どうする? 族に集めさせても、もう集まらないぜ?」
 先月も別の債務者が自殺を遂げて回収不能になったとき、彼らがOBである暴走族の連中に金の調達をさせたばかりである。しかも100万程度しか集まらなかった。
「オレオレでもすっか?」
「時間がねえよ。鬼のように電話かけまくって、やっと一匹引っかかるかどうかだぜ」
 竜二は、こんなことならもっと懸命に仕事を探して、もう少しまともな職についていればよかった、と最近思うことが多かった。暴走族を引退して、知り合いのツテで組織の末端に加わったものの、何も考えずに暴れまわっていた暴走族時代とは違って、マンガとは違って組織の傘下では個人の自由は全くきかず、ただ厳格に上納を毟り取られていくという世界だった。のし上がろうにも、一体どこまで上がれば金も権力も手に入るのか途方に暮れるほど階層が深い。挙句の果てには、逮捕された時には組織は何の助けの手も差し伸べてはくれなかった。それでも出所した後も、特に何の仕事ができるわけでもなく、結局安易にこの世界に戻ったのだった。
「……んぉ?」
 健介が通りの反対側をみて、何かに気づいた。
「何だよ?」
「あれ、村本じゃね?」
「あ? 村本……?」
 竜二も健介が向ける目線の先を見た。一人の中年男が、ビルのほうを向いて立っている。取り立てて何か注目すべき物も無いのに、そちらの方を見てただ突っ立っていた。
「誰だ、あのブタ」
「あいつ、ウチの店の常連客なんだ。……あいつ、ポリだぜ?」
 竜二は薄く、一部はもう生えてこない眉を寄せて健介を見た。
「ポリが何でお前の店に来んだよ? ってか、その名前知ってるって無くね?」
 健介は吸っていたタバコを半分以上残して、道に投げ落として踏みつける。
「予約入れる時の名前だよ。さすがに偽名だろ。……ポリっつーのは先週に知った」
「なんでわかったんだ?」
「よく来るから顔憶えてたんだよ。前に舎弟企業に行った時、街歩いてたら、制服着てたアイツがいやがった。向こうは気づいてなかったけどな」


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