10.知らずに上がった舞台-7
「えっと、403だな。……4、0……」
「おっ。入ったみたいだぜ?」
竜二が番号を入力している最中に、壁の点滅が、黄色の点灯に変わった。
悠花は力づくで押されながら、バスルームとトイレ沿いに作られた短い廊下を歩かされて部屋の中へ進んでいった。外装は古めかしかったが、中は案外広く、壁紙も比較的新しいものが貼られていて、キングサイズのベッドの他に、ソファを置くスペースまで十分にあった。その一人がけのソファまで押し歩かされて強引に身を反転させられると、膝の裏に手を添えられて肩を後ろに押されることで無理やり座らされる。乱暴なエスコートに何か文句を言おうとする前に、ソファの肘置きに両膝を付いて悠花を跨ぐように登って来られた。
「えっ……、やっ……。何っ!?」
「はあっ……、出ちゃうっ。ほら、早くお口開けてぇ……」
ソファに乗り上がり、背もたれにしがみつきながら腰を悠花の顔の前に突き出してくる。
「うえっ、……ク、クサ、……」
鼻のすぐ前に恥垢のこびり付いた裏筋が差し出されて悪臭が漂ってくる。ここまでの痴戯で多少剥ぎ取れているとはいえ、粘液に溶け出した恥垢のニオイは、ビルの狭間で嗅いだ時よりずっと強くなっていた。
「ほら、もう出しちゃうよ。このまま出していいのぉ? お顔にベットリ付いちゃうよぉ?」
「……ムリ。だって……、クサいし、汚い……」
「じゃ、顔射するぅ? そのキレイなお顔に」
「それは絶対イヤッ!」
悠花は村本の体の影に覆われながら、激しく左右に頭を振った。
「んっ……、そんなことしたらっ……。髪が擦れて、カウパー、飛んじゃうっ……」
頭上で村本が呻くと、目の前で男茎が一瞬キュッと縮こまって、根元の方からせり上がるように蠢いて傘が開き始める。これまでさんざん見てきた、男が目の前で透明な粘液を噴出する前兆の動きだった。この距離から漏らされては、顔面を直撃されてしまう――。
「わっ……、ダメッ……」
美貌を守るのと引き換えに、悠花は背中と首を伸ばしてグロスの艶めく唇を開いて、亀頭を口に含んだ。口内に導き入れると同時に、先端から透明汁の飛沫が舌の上に撒き散らされる。たちまち口内にその味覚が広がり、更には鼻へ男茎から発せられる異臭が抜けてきた。
「おっ……、おえっ……」
嗚咽のような嘔吐感が襲ってきたが、背もたれから手を離した村本が両手で悠花の頭をつかみ、膝立ちから足の裏を肘置きに付いてしゃがんだ体勢に変えて腰を進めてくると、逃れることができない。
「うおっ、即フェラ!?」
403号室の映像が映し出されると、天井とベッドトップからのカメラには何も映っていなかったが、壁に仕込まれたカメラには、ソファに女が座り、男が肘掛に両足をついてしゃがんで跨っている後姿が映っていた。男の背中に隠れているが、女がイラマチオで咥えさせられているのは間違いなかった。
「すげえな。部屋に入って一分も経ってなくね?」
健介がタバコに火をつけながら、半ば呆れるような笑みを浮かべる。竜二もニヤニヤしながら、
「しっかしエロい女だなぁ……。無理やりしゃぶらされて気持ちよくなるタイプの、アレか?」
と人差し指でこめかみの辺りをコツコツとつついてから、管理人の女が食べていたのであろう煎餅へ手を伸ばし小袋を開ける。
「村本みたいなブタには勿体無えな」
「いや、案外、サングラスとったらマジブスだったりしてよぉ」
「だとしても、あのカラダは結構たまんねぇだろ。……おい、ババァ、茶かコーヒーでも入れろや」
二人が鑑賞するモニタの向こう側では、先端を滑らかな唇と舌に包まれた村本が、陰嚢から迫り上がってくる精液の堰を解き放とうとしているところだった。
「う、ああ……、出ちゃう……。出すよぉ。……つ、次は吐き出したらダメだからねぇ」
「ンンーッ……!」
口に男茎を突っ込まれながらも、目を閉じ頭を横に振って拒絶の意を伝えようとする悠花を見下ろして、その様子に余計に嗜虐心が湧いてくる。村本は眼下の光景に酔いしれながら、温かく潤う美貌の口内に向かって堰を切った。