10.知らずに上がった舞台-5
「ほらぁ、悠花ちゃん……、早く入ろうよぉ。このままスカートのお尻にピュッピュッてしちゃうよぉ?」
「バッ……、バカなことしないでっ」
「苦手なのはわかってるけどぉ、俺とセックスフレンドになったんだからぁ、俺のザーメンにも慣れてってもらわなきゃねっ」
「イヤよ、そんな汚いの」
「ふふっ……」
亀頭はスカートの表面から降りていって、裾から伸びる太ももの裏側の肌に直接擦られてくる。「俺みたいなぁ、きったないキモ男のザーメンで悠花ちゃんが汚されるなんて、ゾクゾクするじゃん……。この脚も、オッパイも……、そのキレイなお顔もねっ」
言われた瞬間、凄まじい悪寒が背中を走った。常人とはかけ離れたあの射精量を体、そいて顔に浴びるなど、想像するだけでも激しい身震いがした。
「絶対イヤ。顔にかけたりとかしたら……」こんな言葉を自分が口走るなど思っても見なかった。「殺してやるから」
村本もまた、振り返ったサングラスの薄曇りの向こうに仄見える悠花の恨念を帯びた瞳に身震いをした。悠花ならば殺されてもよいと思える畏敬の念と、そこまで宣わせる高雅な悠花の美顔を精液で汚濁してやれるかもしれない期待が入り混じった、被加虐両方の悦楽によるものだった。悠花の見えないところで、キュッと美しい丸みで引き締まったミニスカートに向かって、透明汁が勢い良く飛び散る。黒の生地に透明の粘液が何条もこびりつき、廊下の暗い照明に光るのを眺めながら、
「あはっ……。何にしても、こんなところに居たら、誰かに見つかるかもしれないよぉ? 悠花ちゃんさっきから声大きいし。……部屋に入ったら、すぐに出ちゃうと思うけどぉ、そんなに顔射がイヤなら、またお口に出すしかないねっ」
ここが廊下であることも忘れて思わず普通の声で話してしまっていたことに気付き、慌てて声のトーンを落としながら、
「イヤよ、あんなマズいの。わざわざそんなことしないでも、どこか外に出したら済む話でしょっ」
と言って、まだ喉元にビルの狭間で出された精液の粘りが残っているような不快感が思い出されて自ずと唾液を呑んだ。
「だーめ。どっちかだよ、悠花ちゃん」
村本はお構いなしに声のトーンを落とすこと無く、通常の声量で廊下で話し続ける。
「お顔か、お口かどっちかだよぉ。……それともぉ」背後で村本が少し腰を落としたかと思うと、いきなり脚の付け根ギリギリの肌に、ヌルヌルになった亀頭がヒタッと当てられる感触があった。「ここでこのままハメちゃう? そんなに勿体ぶるってことはぁ、本当は一番好きな中出ししてほしいとか?」
背後からスカートの中に亀頭を侵入されている。先ほど顔面を押し付けられて潤ってしまった入口はここに来るまでに心を渦巻いていた期待感のせいで乾いている筈がない。つまり、村本がその気になれば、悠花はこんな場所で男茎を受け入れ、犯されてしまうこともありうる状況だった。
「や、やめ……。入るから。中に。ここではやめて」
「そお。じゃ、お口でする? 顔射は絶対拒否なんでしょぉ?」
顔だけは汚されたくない。モデルとして、そして最近業界でも評価されステップアップしている者として、自負ある美貌で精液を受け止めるのは、悠花にとっては最大の屈辱だった。
「わかった、わよ……」
と歯ぎしりしたい思いで言ってドアノブを捻る。
「わかったって、どういうことぉ? そのお口にザーメン出してほしいってことだよねっ。瀬尾悠花ちゃんっ!」
押戸のドアを開いて進もうとしているのに、腰を掴んだまま動こうとはしない上に、突然にフルネームを大きな声で付け加えられた。
「やめてっ」
引きずってでも部屋の中に逃げこもうとしたが、男の体は重く、パンプスが前へ進まない。
「『ザーメンは口の中に出してください』、でしょぉ? 瀬尾――」
もう一度名前を呼ぼうとする。男が悠花に淫らな言葉を言わせたがる性分なのは、これまでの被虐で十分わかっていた。言わなければ男は絶対に動かない。男にとってはラブホテルの中で下半身を露出しているのを誰に見られようが痛くも痒くもないかもしれないが、自分は違う。