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桜花の露、爛漫の秘肉
【その他 官能小説】

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桜花の露、爛漫の秘肉-1

 あれは、私が東北の小京都と言われる街を旅した時のことである。今思い出しても不思議な体験だった。そし て、めくるめく官能の、死の淵を覗くほどの狂おしく淫猥な経験だった……。



 日本一と称される桜の名所である公園を訪れたのは五月初旬。ゴールデンウィークに会社の有給休暇を一日加算 しての長い休み、それを利用しての東北の旅だった。

 うららかな日ざしの佳日。園内三千本とも言われる桜の木々の織りなす景観はじつに見事で、私は人波に揉まれ ながら花の雲の下を漂うように歩いていた。

 昼の桜は掛け値なしに素晴らしかったが、夜桜もいいと地元の人が言うので、私は民芸酒場で早めの夕食、それ に軽く一杯と洒落込んだ後、公園にまた足を運んだ。

夜 の帳に包まれた園内は、あちこちで桜がライトアップされ、昼とは違う美しさだった。日本最古の染井吉野や桜のトンネルなど見所を回った 後、人通りの少ない小道へ足を踏み入れた。照明も少なく、闇の濃い一角に、幽玄なしだれ桜の木が一本あった。

ま だ三分咲きのしだれ桜だったが、古木らしく、じつに雰囲気のある桜だった。近づいていくと、ふいに、キーンと耳鳴りがして、足取りが鈍っ た。が、すぐに耳は元に戻った。

い や、戻ったと思ったのは間違いだった。急に物音が一切消えた。何も聞こえなくなった。無音が続く。……不安が頭をもたげる。さらに、軽い 目眩までも覚え始めた。立っていられなくなり片膝を付く。息づかいが荒くなり顔を伏せる。

し ばらく、暗い地面を見つめたまま深呼吸を繰り返した。ふいに風を感じ、顔を上げてみると、サーッと葉擦れの音がした。

ゆっ くりと立ち上がると、しだれ桜が微かに揺れていた。

(なんだったんだ、今のは……)

軽 く頭を振り、この場を立ち去ろうとすると、目の端に何かが映った。見ると、しだれ桜の木の前に、背の低い誰かが立っていた。よく見ると、 少女だった。小学校高学年くらいか……。おかっぱ頭で着物を着ている。ほとんど明かりがないのにもかかわらず、その目鼻立ちがはっきりと 見えるのが不思議だった。

 切れ長の目は、そのほとんどが黒目。鼻筋通りおちょぼ口なのは雛人形を彷彿させた。呆然と少女に目を注いで いると、彼女が声を発した。

「さ……、いぐべし」

方言だろうか。意味がつかめなかった。

「さあ、行ぐべし……」

少女は片手を差し伸べた。そして、笑みを浮かべた。年齢にそぐわない妖艶な笑みだった。それに釣られたわけで はなかったが、私は少女のほうに足を踏み出した。ふらふらと近づいた私は自然と片ほうの手を前に出していた。それを小さな白い手がつかむ と、

「さあ、一緒に行ぐべ」

少女は私を軽く引っ張るようにして歩き始めた。自然と自分の足もそれに従う。そして、しだれ桜の無数の細い枝 を潜り、濃い闇の中へと入っていった……。




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