のぶ子の幸せ-1
光一平(ひかる いっぺい)は三十初頭になっても、童貞でこそないと言え、女性経験が実に少なかった。女に好かれるたちでもなく、気も弱く、たまに一平に言い寄るような女性があるかと思えば一平の気に入らずと、運の憑きようがないのだった。
しかし一平はこのごろある美しい小学生と恋愛していた。相思相愛であった。人生に花が咲いたように一平は思った。何やかやの理由がついて一平はしょっちゅう物をもらった。相手の子は高学年であったので、性に燃えるような興味を持っていた。すてきな恋愛が短縮されて、一直線に体のつながりへ至ることをこの子は毎夜空想した。
夏の日、この子は才知を使って経験する方法を考えついた。女らしい心の現れだった。一平が自分を充分好いていること、汗のにおいまで嫌わないことを記憶の中でよく確かめ、自分の体でも誘惑できると判断を固めた。自分がまだ妊娠しないことを計算にしっかり入れ、気遣いなしで体験できることを喜んだ。女に飢えてもいるだろうと一平を憐れむ心で自尊心を包み、空想の中で自分を求める一平の姿を描くのだった。小学生の空想は展開して、意地悪な自分に少女は驚きさえした。一平が金を払って女の体に触れたことがあるなどとはもちろん思いもよらなかった。
この子はのぶ子といった。親はイタリア人であった。母方の祖母が日本人で、名前は祖母が付けた。
ところで一平は、薄着ののぶ子の肩口から覗く乳首や、短いスカートから伸びる脚、溌剌とした目つきと好意にあふれた笑顔、白く大きな前歯など、のぶ子の全てが心から離れなかった。女性と付き合ったことの皆無に等しい一平が考えることは、恋愛への無知の加減においてのぶ子と同程度であった。のぶ子といえばのぶ子の体のことを一平はすぐ思い浮かべた。
蝉のうるさいある暑い日、一平はのぶ子を家に誘った。のぶ子はひまだと言い、何をしようという話もなくたちまち一平の部屋に来た。タンクトップにミニスカート、サンダルで、長い髪を編んできた。Tシャツでももう乳首が分かりすぎるくらいなのに、大きめのタンクトップで、ときどき肩ひもがずるりと落ちて胸まで見えそうだった。反対にスカートは昔のものだろうというくらい短かった。
ベッドに並んですわった二人は、互いのごくりという唾をのむ音を聞いた。
勇敢な女の誘いこそが男の力を発揮する。思いつくまま言った。女の人の体どうなってるか知ってる? 頭のいいのぶ子には、これを口にしたとき、答えも用意できていたのである。知っていると一平が言えば、あたしの体が変じゃないか調べてほしい。知らないと言えば、あたしが教えてあげるね。一平は正直に言った。大人の体は大体知っているが、君みたいな歳のは知らない。のぶ子は少し困ったけれども、単純に返した。じゃあ見て。そしてどんどん裸になった。
のぶ子は一平に食べられているような気がした。また、自分のどんな所も一平には大切なのだと分かって、自分がこの人を助けるのだと強く思った。
一平は、朝のかおりを放つような、伸びやかで重くも女臭くもないのぶ子の体が自分にすっかり開かれているのに感動して、この子に精一杯の善を与えようと思った。
まだ高い日に照らされた血がシーツに固まっていた。一平の血であった。のぶ子は手当てしながら、お医者さんに行かなきゃだめかなと言った。あたしが小さすぎるからいけないんだよねと、のぶ子は一平の頭を裸の胸に抱いた。
いずれにせよ、この二人の思いは遂げられたのであった。二人の仲はますます親しいものになっている。一平はこのごろ堂々としてきた。周りでは、誰か相手ができたものと噂している。人が聞けば一平は、はっきりしたら紹介すると答えている。五年もすれば結婚するつもりであった。
のぶ子のほうでは、学校や一平の仕事やが邪魔になって、休みにしか会えないのを歯がゆく思っていた。その分、休日は一平を独り占めにしたがった。一平のためにどれだけ綺麗になれるか、随分と服装に気をつかっている。料理の勉強も始めた。のぶ子の母親は、のぶ子も年頃なのだと思いつつ、休みに家にいたがらないのぶ子のようすから、いつかは何か聞き出したい欲求に駆られてもいた。のぶ子は今、心から、早く女の体になることを願っている。そして一平を喜ばせたいと思っている。それより先のことは、頭のいいこの小学生にも、大人になった自分と一平との結婚式しか浮かびようもなかった。