投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

an oil lighter
【その他 官能小説】

an oil lighterの最初へ an oil lighter 3 an oil lighter 5 an oil lighterの最後へ

an oil lighter-4

「ん…、今日は…いいの?」

「あぁ、サービス」

「バカぁっ、あぁあん、んぐぅっ!」

 彼は彼女に首をかじりつかせ、そして腰を激しく打ち付け始めた。
 彼女の背中に腕を回そうとした時、彼女の手が先に彼の両頬に触れた。
 ペースを緩やかにし、彼女の意に応える。
 あたたかい舌が健の口へとそっと運ばれてきた。
 普段あまり彼女からそうしないために、彼は驚く一方で深い愛情を受け取ってしまった。
 二つの体はそのまま揺れ動くことなく小さな世界で絡み合った。

「ごめん、佐奈、俺そろそろ…。」

「うん、いいよ…」


 舌を絡ませながらそっと佐奈の体をベッドに寝かせ、彼女の両腕を左手で後ろに組ませた。
 そして右手で彼女の左頬からゆっくりと体に添って手を運び、
 後ろで腕を組んだことにより、上に引っ張られる形良い乳房を揉みしだいた。
 そしてすぐに両手を彼女の背に回して覆いかぶさり、耳元で呟いた。

「佐奈、愛してる」

「うん、あたしも…」

 彼女の両足が腰に絡みつき、両腕もしっかりと彼を抱き締めて全てを受け入れている。
 しがらみは何も無く、振動は次第に勢いづく。
 
「んっ!! …あんぁあっ!!」


 そして佐奈の中で放出され、振動は徐々に静寂となっていく。
 健は彼女の耳を撫でるように舐めている。
 二つの体が完全に静止した時、彼等は柔らかなキスを始めた。


「ねぇ、健、ぎゅってして」

 ベッドを後にし全てを終え処分している健に、
 彼の後ろ姿を見つめながら横に寝ている佐奈の声が響いた。
 その言葉に誘導され静かにキルトをめくり、彼女の隣に添う。
 そして再び仰向けの彼女に覆いかぶさり、しっかりと、抱き締めた。

「健つめたぁ〜ぃ」

「佐奈はあったかいな。」

「あたしの心があったかいからだよ、健は冷たい人ですなぁ〜」

「じゃぁ、俺の心ごとあっためてよ。」

 彼の耳元で呟いていた彼女はくしゅっと可憐に微笑み、
 脚を優しく絡めながら両手で背中をさすっている。
 彼女の温もりが、じんわりと彼の心の奥へと届けられていった。
 健の唇は彼女の額に愛を残した。
 
 遥かな時を感じさせる抱擁の後で、健は佐奈の体を横に寝返らせた。
 彼女の顔が右胸に埋まってから、首に回されている右腕を肘を立たせそっと髪を撫でる。
 絡み合った脚はほどかれる事無いままに。
 
「なぁ」

「ん、なぁに?」

「幸せになろうな…」

「…うん」

 キルトが彼女の顔半分を覆い隠しているため、しっかりとは言葉を拾いきれない。
 ただ、回されている彼女の腕にその瞬間僅かな力が込められた。
 それだけで十分だった。

 ウォーターキャンドルの灯火はひっそりと消えていた…―――


 灰皿の中で煙を立てることなく、フィルター以外を煙草の原型に留めている灰があった。
 眠りに落ちてしまった健をよそに、時間は着実に刻み続けている。
 ただ彼の中でだけは、彼女と共に過ごした時から刻み続けてはいない。
 どれだけ彼女との思い出を抱き締めても、
 どれだけ彼女と体を重ね合っても、
 もう佐奈を抱き締める事は無い。
 
 ビゾンテのオイルライターが再び彼の手の中に吸い込まれると、
 彼の咥える煙草に火を点そうとした。
 ただ点されなかった。
 数度に渡って火を熾そうとした時、弱々しい火がようやく姿を見せる。
 その火へ静かに顔を寄せ煙草に点火した。
 火を消すと、もう2度とオイルライターは彼に紅い煌きを見せる事は無かった。
 それを一度テーブルの上に置き、じっと見つめる。
 表面は眩く輝いているのに、既に事切れている。
 オイル交換されることを、それは望んではいなかった。

 今は後悔してはいけない。
 結果を否定すれば、佐奈との2年半の全てが無に帰するような気がした。
 オイルライターは静かに健を見つめている。
 黙って彼の背を押そうとしている。
 健を見守っていたそれが、遂に役目を終える。
 最期にそれは健に、温かく、そして強い勇気を渡した。

 ならば力強くこれからを歩んで行くしかない。
 手のひらにそれを置き、親指でそっと撫でた。

(ありがとう…、そして…、さよなら)

 再び健の中で時は刻みだした。
 彼女と付き合い始めた頃のような力強さはまだないけれど、それでもゆっくりと。
 彼女の幸せという小さな火だけは消え失せることが無いことを、ただ願いながら。

 それを貰った時、彼女はいつまでも残ると言った。
 形としてはもう残らない。
 けれども1つの過去として2人の中で永久に残るはず。
 もう十分あたためられた。
 だから
 今度は彼女をあたためて欲しい。
 前に進む彼女を優しく。
 くずかごに捨てられたオイルライターは
 きっと灯してくれる―――


an oil lighterの最初へ an oil lighter 3 an oil lighter 5 an oil lighterの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前