an oil lighter-4
「ん…、今日は…いいの?」
「あぁ、サービス」
「バカぁっ、あぁあん、んぐぅっ!」
彼は彼女に首をかじりつかせ、そして腰を激しく打ち付け始めた。
彼女の背中に腕を回そうとした時、彼女の手が先に彼の両頬に触れた。
ペースを緩やかにし、彼女の意に応える。
あたたかい舌が健の口へとそっと運ばれてきた。
普段あまり彼女からそうしないために、彼は驚く一方で深い愛情を受け取ってしまった。
二つの体はそのまま揺れ動くことなく小さな世界で絡み合った。
「ごめん、佐奈、俺そろそろ…。」
「うん、いいよ…」
舌を絡ませながらそっと佐奈の体をベッドに寝かせ、彼女の両腕を左手で後ろに組ませた。
そして右手で彼女の左頬からゆっくりと体に添って手を運び、
後ろで腕を組んだことにより、上に引っ張られる形良い乳房を揉みしだいた。
そしてすぐに両手を彼女の背に回して覆いかぶさり、耳元で呟いた。
「佐奈、愛してる」
「うん、あたしも…」
彼女の両足が腰に絡みつき、両腕もしっかりと彼を抱き締めて全てを受け入れている。
しがらみは何も無く、振動は次第に勢いづく。
「んっ!! …あんぁあっ!!」
そして佐奈の中で放出され、振動は徐々に静寂となっていく。
健は彼女の耳を撫でるように舐めている。
二つの体が完全に静止した時、彼等は柔らかなキスを始めた。
「ねぇ、健、ぎゅってして」
ベッドを後にし全てを終え処分している健に、
彼の後ろ姿を見つめながら横に寝ている佐奈の声が響いた。
その言葉に誘導され静かにキルトをめくり、彼女の隣に添う。
そして再び仰向けの彼女に覆いかぶさり、しっかりと、抱き締めた。
「健つめたぁ〜ぃ」
「佐奈はあったかいな。」
「あたしの心があったかいからだよ、健は冷たい人ですなぁ〜」
「じゃぁ、俺の心ごとあっためてよ。」
彼の耳元で呟いていた彼女はくしゅっと可憐に微笑み、
脚を優しく絡めながら両手で背中をさすっている。
彼女の温もりが、じんわりと彼の心の奥へと届けられていった。
健の唇は彼女の額に愛を残した。
遥かな時を感じさせる抱擁の後で、健は佐奈の体を横に寝返らせた。
彼女の顔が右胸に埋まってから、首に回されている右腕を肘を立たせそっと髪を撫でる。
絡み合った脚はほどかれる事無いままに。
「なぁ」
「ん、なぁに?」
「幸せになろうな…」
「…うん」
キルトが彼女の顔半分を覆い隠しているため、しっかりとは言葉を拾いきれない。
ただ、回されている彼女の腕にその瞬間僅かな力が込められた。
それだけで十分だった。
ウォーターキャンドルの灯火はひっそりと消えていた…―――
灰皿の中で煙を立てることなく、フィルター以外を煙草の原型に留めている灰があった。
眠りに落ちてしまった健をよそに、時間は着実に刻み続けている。
ただ彼の中でだけは、彼女と共に過ごした時から刻み続けてはいない。
どれだけ彼女との思い出を抱き締めても、
どれだけ彼女と体を重ね合っても、
もう佐奈を抱き締める事は無い。
ビゾンテのオイルライターが再び彼の手の中に吸い込まれると、
彼の咥える煙草に火を点そうとした。
ただ点されなかった。
数度に渡って火を熾そうとした時、弱々しい火がようやく姿を見せる。
その火へ静かに顔を寄せ煙草に点火した。
火を消すと、もう2度とオイルライターは彼に紅い煌きを見せる事は無かった。
それを一度テーブルの上に置き、じっと見つめる。
表面は眩く輝いているのに、既に事切れている。
オイル交換されることを、それは望んではいなかった。
今は後悔してはいけない。
結果を否定すれば、佐奈との2年半の全てが無に帰するような気がした。
オイルライターは静かに健を見つめている。
黙って彼の背を押そうとしている。
健を見守っていたそれが、遂に役目を終える。
最期にそれは健に、温かく、そして強い勇気を渡した。
ならば力強くこれからを歩んで行くしかない。
手のひらにそれを置き、親指でそっと撫でた。
(ありがとう…、そして…、さよなら)
再び健の中で時は刻みだした。
彼女と付き合い始めた頃のような力強さはまだないけれど、それでもゆっくりと。
彼女の幸せという小さな火だけは消え失せることが無いことを、ただ願いながら。
それを貰った時、彼女はいつまでも残ると言った。
形としてはもう残らない。
けれども1つの過去として2人の中で永久に残るはず。
もう十分あたためられた。
だから
今度は彼女をあたためて欲しい。
前に進む彼女を優しく。
くずかごに捨てられたオイルライターは
きっと灯してくれる―――