音楽―前編―-8
言葉がでない、何を言ったら想いが伝わるのかが分からない。ただ悔しさと刹那さで感情が乱れて、涙が溢れだして止まらない。
「由香…。」
隼人は声を押し殺して泣く由香をただ抱きしめた。どうしていいか分からない、ただ本能で抱きしめていた。
「傍にいたいの…っ!何にもできないかもしれないけど…っ隼人を好きでいることはできるから…っ!」
いつのまにか由香は腕を隼人の背中にまわしていた。離れていかないように、つなぎ止めるようにしっかりと抱きしめていた。
「由香…。」
「後悔なんかしない!でもやってしまった後悔より、やらなかった後悔のほうが残るの知ってる?…だったら私は自分の想いは曲げないわ。」
離れたくない。二人の気持ちは一緒だった。次第に隼人にも熱いものが込み上げてくる。
ずっと向き合ってきた自分の死に由香が加わることなど、かすかに見た夢にすぎなかったのに。由香は自分から隼人の懐に、まるで彼を包み込むように入ってきた。
「由香、ごめん…。ごめん…。」
その言葉は由香を受け入れた証拠だった。由香の中に安心と覚悟が生まれる。守らなければ。
「隼人、教えて。私たちに残された時間はどれくらいあるの?」
大学の校舎の屋上、由香はすがる思いで自分の記憶をかけめぐる。どこを探しても隼人ばかりで、とても隼人本人がもういないなんて信じられなかった。
今の由香には生きる気力がない。由香を支えていた大きなものが全て無くなってしまっている。
隼人は手紙を手にしたまま、そんな由香を改めて見ていた。どうしようもない気持ちが押し寄せてくる。
「由香…。」
愛しい名前を呟いた瞬間、隼人を軽いめまいのようなものが襲った。シンはそれに気付き、とっさに隼人を支える。
「シン…。」
「隼人、大丈夫か!?」
「なんか…めまいがして…。」
「時間があまりないんだ。もう転生への準備が始まっている。」
隼人は少しぼんやりする思考をさまよった。その頭のなかで転生という言葉の真意を探る。
「隼人はもう羽根があるから進行が早いのかもしれない。こっちにいるから尚更…リセットが早まる…。」
シンは言葉を選びながら隼人にめまいの意味を話した。いくらオブラートに包んでも隼人にはダイレクトに響いた。