第一章：少女は一途に…-1
1990年代初め。初夏の風が吹くS商業高校グラウンドでは翌日に迫った運動会のリハーサルが行われていた。小熊久美子はグラウンドに両手をつき、下腹部にぴたりと密着するブルマから伸びる左足を天に向け、日焼けした脚を高く突き上げた。度重なる激しい運動で、ブルマの股上から白いパンティが露出している。愛らしい顏で天を仰ぎ、胸を反り返らせると、半袖体操着の下で成長著しいバストの形が露わになる。組体操を行う２年生の女子の練習は熱を帯びているが、久美子は別の事を考えている。
（雅昭ったら、どこへ行ったのかしら…）
このS商業のすぐ隣にあるK工業高校に通う一つ年上の幼馴染、相田雅昭は学内で暴力沙汰を起こし、行方をくらましている。小さいころから近所に住む仲良しの「友達」だった雅昭は、心身の成長とともに恋心を抱く「カレシ」に変わっていた。思春期以降、やや荒れはじめた雅昭だが、久美子に対する不器用な優しさは変わらず、付き合いは続いていた。
（連絡くらいくれればいいのに…）
かねてから問題児の集まる工業高校として知られているだけに、気象に荒い雅昭がトラブルを起こしはしないかと密かに案じていた久美子。心の闇を撃ち払うかのごとく、若さあふれる全身を目いっぱい広げ、聡明そうな額を汗で光らせ、青空を綺麗な切れ長の瞳で見つめる。失踪して一週間が経過するというのに、電話ひとつくれない幼馴染に水臭さを感じていたが、なによりもカレシの身の安全を心から祈る久美子だった。携帯もメールもないこの時代だからこそ、愛は深まったのかもしれない。
そんな久美子をグラウンドの片隅に設置されたプレハブ小屋の陰から見つめる複数の影。
「あの女だぜ、あのハミパンしている娘だ」
「ブルマ…たまらねぇぜ…」
「相田の奴…羨ましいじゃねぇか」
初恋の幼馴染を想いながら、競技に励む美少女を淫靡な顔つきで眺める男たち…。その中の一人が血走った目で凶行を促す。
「願ってもねぇチャンスじゃねえか…今日、やっちまおうぜ…」