大好きな絵本-3
でも、その水槽には金魚しか居ないはずです。
だいたい、こんな大きな女の子が小さな水槽に住めるはずがありません。
「ウソだあ」
「ホントです。王子様が金魚さんが大好きな事も、毎日ご自分で水槽の掃除をしたり水を入れ替えたりしているのも知っています」
城の人間も一部の人しか知らない事を言い当てられ、王子様は目をぱちくりさせました。
「本当なのかい?」
「ハイ。いつも綺麗にしていただいて感謝しています」
女の子は深々と頭を下げました。
「じゃあ、さっきのは……」
「ハイ。お城に住んでいる精霊達です」
シクシク泣いていたのは王子様が千切った花の精霊、怒って追いかけてきたのは毒を流された泉の精霊。
「じゃあ、あのお爺さんは……」
「王子様が斬り倒した木の精霊です」
女の子は涙をこぼして答えました。
王子様は驚いて言葉も出ません。
面白がって自分がしていた事は、精霊達にとってはとても酷く残酷な事だったのです。
「ボクはなんて事を」
泣いていた花の精霊にとって木のお爺さん精霊は、本当のお爺さんのような存在だったろうに。
泉の精霊にとっては泉の水を捧げる神様のような存在だったかもしれない。
なのに、自分が面白半分で斬り倒した……殺してしまった。
王子様の目からポロポロと涙が零れました。
「どうして助けてくれたの?」
「ワタシはいつも王子様に綺麗にしていただいています。そのお礼です」
女の子は涙目のまま王子様に答えました。
「ボク、皆に謝らなきゃ」
「いいえ。精霊は一度怒ると手がつけられません」
謝ったくらいでは許してもらえないでしょう。
「さあ、ここから元の世界に帰れます。皆が来る前にはやく」
「でも……」
とどまろうとする王子様の背中を、女の子が強く押しました。
ふと気がつくと、そこは元居た小屋でした。
王子様は慌てて外に飛び出し、自分が斬り倒した木の所へ行きます。
「お爺さん、ごめんなさい。ボク、皆に許してもらえるように頑張る」
王子様は静かに横たわる木に話かけると、お城に戻りました。