大好きな絵本-2
「いったい誰がこんな酷い事をしたんだ!!」
王子様はカンカンです。
「オウジサマ、です」
「え?」
悲しんでいた人々がゆっくりと立ち上がり、ゆっくりと王子様に身体を向けました。
「オウジサマ、あなたですよ?」
「嘘だ!ボクは人なんか殺してない!」
「ええ、人は殺していません」
「でも、私達の仲間を殺した」
「仲間の身体を真っ二つにした」
「仲間に毒を流した」
「仲間の頭を千切ってばらまいた」
人々はゆっくりゆっくり王子様に近づきます。
王子様はジリジリと後退り、首を横に振った。
「違う!あれは人にしたんじゃない!」
「私達にとっては同じ事」
「水も植物も人も生きている」
「だから同じ事」
「オウジサマは仲間を殺した」
「罰を」
「オウジサマに罰を」
ゆっくり近づいてきていた人々が、急に両手を上げて走り出しました。
「わああぁっ」
王子様は踵を返して逃げ出しました。
お城の敷地のはずなのに明かりがひとつもありません。
「罰を罰を……」
後ろからは沢山の人々が追いかけて来ます。
王子様は必死に走りますが、距離は縮まるばかり。
沢山の手が伸びてきて王子様を捕まえようとした、その時。
「コッチ」
小さな声が聞こえました。
「コッチコッチ」
小さな声は王子様を導くように囁きます。
王子様は誘われるままに声の方へ走りました。
そこは木がまばらに生えていて、進むにつれてだんだんと木々が増えていきます。
小さな声のする方へと進んで行くと、間近に迫っていた筈の手が遠ざかり、王子様を責める声も聞こえなくなりました。
「モウ ダイジョウブ」
王子様は息をきらせながら小さな声がする方を見ました。
そこには、自分と同じくらいの年頃の女の子が居ます。
女の子は両手を祈るように組んで、ビクビクしながら王子様を見ていました。
「キミは誰だい?」
「ワタシは水の精霊です」
「水の?精霊?」
「ハイ。王子様のお部屋にある水槽に住んでいます」
そういえば、王子様の部屋には小さな水槽があります。
金魚を2匹飼っていて、王子様はその金魚が大好きで毎日眺めていたのです。