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LOVE AFFAIR
【アイドル/芸能人 官能小説】

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9.綻び-9

「やめて……、ここでは」
 声のトーンをさげて、暴走しかねない男を諌めるが、男はニヤニヤしたまま、
「どっちなの? させてくれるの? くれないの? 瀬尾……」
 と譲る気は全くない。
「いいけど……」
「あはっ……、『いい』って?」
「だから――」悠花は周囲を気にして更にトーンを下げる。「していいからさ……」
「くくっ……、ほら、ちゃんと、言って? クンクン、していいんだね?」
 街中で何ということを言わせるのだろう。しかし男の様子を見る限り、悠花自身の口から言わない限り、この衆人環境から去るつもりはないようだ。
「……ク、……」
 言おうとしたが、さすがに男と同レベルの、低俗な言葉を吐くのは羞かしすぎた。「嗅いで、いい、から……」
 サングラスをしていても、顔を背けてしまった。言ってしまってすぐに頬が熱く火照る。悠花に羞恥の言葉を吐かせると、嬉しそうに身を寄せてきて、
「んふっ、じゃ、じゃぁ、行こうかぁ。ク、クンクンしにねっ」
 と、悠花のチュニックに隠れていた細くクビレたウエストに手を添えてエスコートしようとしてくる。
「ちょ、触らないでよ」
 身を揺すって逃れようとするが、案外強く腰を抱かれて、まるで恋人のように身を寄せて歩く羽目になる。抵抗して男の手から逃れきるよりも、まずは男に従ってこの場から逃れようと、不本意な溜息をつきつつも、仕方なく悠花は導く方向へ歩みを進めていった。
 桜田通りの西側に広がる街並みの中へと導かれる。風俗店以外にも、普通の居酒屋や小料理屋もあるため人通りは多い。すれ違う者は皆、悠花の方へ視線をくれてきていた。男女関係なく目を惹く美しいルックスに加えて、およそ釣り合いの取れない中年男に、その高い位置にある腰に手を回されて歩くその不思議な姿のせいだ。そういう商売のオンナか? ……にしては、レベルが高すぎないか? 通常ならばありえないカップルを見た誰もが、そうやって勘ぐることで、容易に納得できない組み合わせを何とか理解しようとする。視線の中に羨望を受け入れることができない人々の戸惑いを感じて、村本は愉快極まりなかった。すぐ隣を歩く悠花が左右に繰り出す美脚へ目を向ける。今やグラビアアイドルオタク男たちの妄執の的となった悠花だったが、特にその抜群のスタイルに映える美しく長い脚の虜となる脚フェチが多かった。しかも今、瀬尾悠花は自分の指示に従って、その長い脚の付け根に一週間もの間同じ薄布を身に纏い続けている。オープントゥのパンプスから伸びる美脚が交互に繰り出されている、そのつま先のペディキュアを眺めているだけでも、人気モデル――、今や人気芸能人として世間に認知されつつある女性を我が物にしている征服感で性欲が止まらなくなってきた。
「どこまで行くのよ」
 傍にいながらも決して村本の方を見ることはない。毅然とした体だが、あまり人目に触れて正体がバレることを恐れているのがよく伝わってきた。世間に持て囃されている悠花と交わることを許されている、それを自慢するように人々の前で連れ回すつもりだった。悠花に羞恥を味わせ、その気品ある美貌が崩れるのを楽しむ以前に、自分の方が先におかしくなりそうだった。
 村本は周囲を見回すと、急に腰を抱く手に力を込めて、悠花の歩む方向を変えた。
「えっ、な、何?」
 突然の所作に、驚きと不安があったが、前回会った時には見せなかったような、有無を言わせないほどの強引さで引き連れられていく。
(……え?)
 向かう先には建物の入り口はなかった。路地ですらない、古びたビルの間だった。何かの鉄蓋が並び、ひび割れて崩れたコンクリート床の、ビル壁の隙間へと導かれていく。
「やめ……、こんなところ、イヤよ」
 男が何をしようとしているかは想像がついた。この男がこんな場所へ自分を連れ込む理由など一つしかない。


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