揺れる想い-14
「マユーっ!」ケンジは自分のベッドで目を覚まし、飛び起きた。汗びっしょりになっていた。辺りは静まりかえっている。
床に敷かれた布団でケネスが枕を抱きしめ、丸まって寝息を立てている。
「ゆ、夢?」
その時部屋のドアが開けられた。「ケン兄……」涙声のマユミだった。
「マユ!」
マユミは怯えたように部屋に駆け込み、ケンジに飛びついた。「ケン兄、ケン兄! あたし、あたし……」
泣きじゃくるマユミの髪をそっと撫でながらケンジは言った。「どうしたんだ? マユ、」
「イヤな夢、みた。とってもイヤな夢」
「夢? どんな?」
「ケニーくんにレイプされる夢……」
「な、何だって?!」
「も、もう忘れてしまいたい。自分が許せない。あんな夢をみた自分が、許せない!」
「(お、同じ夢?)」
ケンジはマユミを抱いたまま囁いた。「マユ、もしかしておまえがみた夢って……」
話し終わったケンジの顔を驚いた顔で見つめて、マユミは言った。「ど、どうして知ってるの?」
「俺も同じ夢をみたんだ」
「ほ、ほんとに? 信じられない……でも、なんで……」
ケンジはマユミをベッドに一人で座らせ、部屋の灯りをつけた。そして布団に丸まっているケネスの頭を足で小突いた。「こいつめ! おい、起きろ、この変質者野郎!」
ケネスはしょぼしょぼと目を開け、呟いた。「え? 何? なんやの」
「おまえのせいで俺たち大変な目に遭ったんだからなっ!」
ケネスは布団の上に正座して、戸惑ったようにケンジとマユミを見比べた。「わいのせいで?」
マユミはクスッと笑って言った。「ケン兄、もういいよ。現実のケニーくんに罪はないから」
ケンジとマユミの話を聞き終わったケネスは言った。「あんさんらが勝手にわいのキャラを創り出したんや。何やの、そのやな性格のケニー」
「本人が言うな!」
「そやけど、話としては萌えるな。なかなか」
「何他人事みたいに言ってんだ」
「他人事やんか。ほぼ」
マユミが言った。「ケニーくんがバイセクシャルだ、って聞いてしまったから、二人でそういうシチュエーションを創り出しちゃったのかもね」
「ま、そんなところかな」
「しかし良かったやないか」
「何が」
「おまえら、仲直りできたみたいやし」
マユミは赤くなってうつむいた。「ごめんね、ケン兄。あたしわがまま言っちゃって……」
「お、俺も……おまえに寂しい思いをさせて……ごめん」
ケンジも顔を赤らめた
「いやあ、初めて見たわ。あるんやなー、こういうコト」
ケンジがケネスに目を向けた。「こういうコト?」
「兄妹以上の関係の兄妹。おまけに双子。さらに、」
「さらに、な、何だよ」
「一線を越えて愛し合う関係の兄妹」ケネスはにっこり笑った。
ケンジとマユミは真っ赤になって、互いに顔を背けた。
「わいも普通やないバイセクシャルやから、あんさんらの普通やない状況も理解できる。がんばりや。けど、よう見てたらお似合いやわ、ケンジとマユミはん」
ケネスはベッドに並んで座った二人の肩を同時にぽんぽんと叩いた。「ほしたらわい、ここで一人で寝直すよってに、あんさんら、出て行ってくれへんか」
「え?」
「マユミはんのベッドで仲良うしたらええやん。もう夜中に起こさんといて。わいも夢の中であんさんら邪魔したりせえへんから。たぶん」
「そ、そうか、済まないな、ケニー」
「早よ出てって」ケネスは手をひらひらさせて二人をケンジの部屋から追い出した。
◆
「いいやつだよな、ケニー」
「そうだね。ケン兄、あの人とライバルでいられて幸せだね」
二人はマユミのベッドで抱き合っていた。ケンジはマユミの白いショーツ、マユミはケンジの黒いTシャツと少し大きめの茶色のショーツを身につけている。
「ケン兄、変態だよ」
「な、なんでだよ」
「だってあたしのショーツ穿いてるじゃん」
「これ穿いてると、おまえを抱いてる気になるんだ」
「興奮する?」
「するする」
「やっぱり変態じゃん」
ケンジは照れたように数回瞬きをした。
「俺のTシャツ、使ってくれてるんだ」
「うん。でも……」マユミは眉尻を下げた。
「どうした?」
「ごめんね、嘘ついて」
「何が」
「体育祭で着るから貸して、なんて言って……」
ケンジは肩を軽くすくめた。「そんなの嘘のうちに入らないよ」
「ケン兄の身に着けてたものを着たかったんだ。それが本当の理由」
ケンジは顔をほころばせた。「俺たち同じじゃん」
「そうだね。あたしもこのシャツ着てると、ケン兄に抱かれてる気になるよ」
「そうか」ケンジはマユミの髪をくしゃくしゃにして笑った。
「そう言えば、おまえのこのショーツ、いつもと違う感じだけど……」
「これサニタリーショーツって言ってね、内側が防水加工されてるんだよ。生理中用の下着」
「へえ、そんなのがあるのか」
「それにナプキン付けてるから、ちょっとごわごわしてるでしょ」
マユミはケンジの手を取り、自分の股間に導いた。
ケンジは指で、そっとその部分を触ってみた。「ほんとだ。大変なんだな、女のコって」
「ケン兄、出したい? 今」
「えっ?」
「エッチしたくない?」
ケンジは少し考えて言った。「我慢する」
マユミは切なそうな目で兄を見つめ、言った。「じゃあ、キスして」
「うん」
ケンジは頬を赤らめ、マユミの頬に指を這わせながらそっと唇を重ね合った。
◆