僕だって!-7
彼女を付け回している奴は、どうやら杏がこの前まで働いていた喫茶店の常連客のようだ
毎日同じ時間帯に同じ席に座り、適当にコーヒーを注文し、嫌らしい目で彼女をずっと
見続けていたそうで、周囲の客に従業員も不気味がってたらしい。
それから彼女が目標を果たしバイトを辞め、これで毎日喫茶店通いはしなくなったかと
思えば、彼女を気に入って密かに帰宅の後をつけ。
「でも、大した事してないし、すぐにやめてくれるって」
「何言ってるんだ、そこまでする奴だよ、このまま放っておくとエスカレートして
大変な事になるって」
ベンチで、僕が奢ったジュースを開けず、両手で持ったまま腰を下ろす彼女。
「警察へ話に行った方がいいよ、犯人がますます付け上がって君にもっと酷い事をして、
オバサンたちまで巻き込まれ、何より心配するだろうし…」
「絆…。」
ベンチから立ち上がり、帰ろうとする杏に僕はすぐさま寄り添い。
「家まで送るよ…」
彼女の家まではそう遠く感じ無かった、その間お互い一切口は出さなかった。
「軽く周りを見てたけど、怪しい素振りをしている人は見かけなかったよ」
「……」
自宅についても尚、不安は取れずにいた、家だって充分危険だ、無言電話にこのままだと
脅迫じみたファックスや杏の写真でも届くんだろうし、増して今は不気味な死骸の
置かれた場所の目の前にいる。
「ありがとう絆、お陰で少し楽になった」
「杏…、そっかぁ」
「親に相談してみる、やっぱプロに任せるのが一番ね♪」
そう語る彼女から笑みが浮かぶ、僅かではあるが僕の大好きな笑顔に近づいように思えた