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翼の記憶
【ファンタジー 恋愛小説】

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とある日常【悠久の王・キュリオ】編 アオイの初めて]T-1

人目にわからぬほど高度をあげて移動していた二人の視界に、白く輝く王宮が徐々にその姿をあらわしはじめた。




「アオイ、お前に怪我させた女共の顔は覚えているな?」




「え?」




驚いたアオイが顔をあげると、男は王宮に集まる人だかりをじっと見つめている。
その表情は決して穏やかなものではなく・・・城守のカイと刃(やいば)を交えたときに伝わってきた容赦のない殺気のようなものが感じられた。




「・・・もう覚えていないです。それに・・・私も悪いから・・・」



「・・・・」



青年は目線をさげて寂しそうに肩を落とすアオイに視線をうつし、
揺れる瞳を覗き込んだ。




「・・・まぁいい。お前の顔を見ていればすぐにわかることだ。俺は俺のために行動する」



はっと顔をあげたアオイはおどおどしながら男の胸元にしがみついた。




「ど、どういう意味ですか・・・?」




「しっかりつかまってろよ?下りるぞ」




アオイの言葉が聞こえなかったようにどんどん高度をさげていく。
やがて人々の表情がはっきりわかるほどになると、青年は背に輝く黒い翼を消してアオイを抱えたまま片足で着地した。


すると、どこからともなくあらわれた二人に驚いた人々がにわかにざわつき始める。



「・・・えっ!?どこから降ってきたのよこの子たちっ!!」



「沸いてでてきたっていうんだろ!そういうのは!!」




「見て見てっ!あの黒髪の殿方素敵〜っ!!!」




「・・・ったくうるせぇな」




そんな言葉を耳にした青年は不機嫌そうに眉間に皺をよせ、ゆっくりと歩き出す。アオイは抱きかかえられたままあたりを見回すと、すでにここは城門の中であることに気が付く。



長身で類を見ないほどの美しい容貌をもつこの青年は人々の好奇な目にさらされながら、どんどん王宮へと近づいて行く。何度も着飾った女たちに声をかけられても、その足と瞳が留まることはなかった。悔しそうに唇を噛みしめるその女性たちの姿が遠ざかると、アオイは肩をすくめて男を見上げた。




「お兄さん、皆お兄さんと仲良くなりたいみたい・・・お話ししてあげないのですか?」



「あ?お前の頼みなら"失せろ"って言ってやるくらいならいいぜ?」



口角をあげながら意地悪そうに笑う男。
そんな男の顔をみて困り果てたように表情を曇らせるアオイ。



何度かそのやり取りをしているうちに、甲高い数人の女性の声が新たに響いてきた。ゾクリとするような錯角にアオイは無意識に振り向いてしまった。




「なんて麗しい殿方ですこと・・・ねぇあなた?名は?」



「あら?まさか・・・子連れ?」



「・・・・」



―――――ジャリ・・・

すると今まで何を聞かれても足をとめようとしなかった青年は、前触れもなく動きをとめて数人の女たちを黙って見据えている。バクバクと音をたてるアオイの小さな心臓はその鼓動を速め、その震えはやがて全身を駆け抜けていった。




アオイと目があった数人の女たちは大きく目を見開き、みるみる鬼のような形相へと変化していく。手にしていた美しい扇子は強く握りしめられ、ミシミシと音が聞こえてきそうなほど苦しそうに軋んでいる。




「鬼よりも鬼の形相が似合ってるぜお前ら!」




青年の嘲笑うかのような挑発的な言葉がまわりに響き渡る。
その言葉とは裏腹に、彼の手は優しくアオイの背を抱いていた。




「んまぁっ!!私たちがあの下品な鬼と似ているとでもっ!?」




「わ、わたくしたちは女神よ・・・っ!あんなものと一緒にしないでちょうだいっっ!!!」




怒りに震える女たちは血走った目をアオイに向けながら、今度は握っていた扇子を両手でしならせはじめた。



「・・・っ!」



その姿に怯えるアオイは、恐怖に口を開くこともできず・・・
ただ男の胸をきつく握りしめている・・・。




「悠久も大したことないな。こんなやつらが女神ってか?
こんな腐った女の肉じゃ飛竜(ワイバーン)だって食わねぇぜ!!」




「わ、飛竜(ワイバーン)ですって・・・?」


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