〈狂宴・前編〉-9
『……女の子同士で好きになるなんて異常よぉ?そんなのきっと美穂さんも喜ばないんだからぁ……』
ホールギャグを咬まされて口を大きく開けた優愛は、犬のようにハアハアと口呼吸をしながらタムルを横目で見ていた。
いよいよ変質者が本性を現し、その毒牙を隠さなくなったのだから、その恐怖に視線を外せなくなってしまっていたのだ。
『ウヒヒ……優愛ちゃんは悪くないのよぉ。悪いのはあの牝……奈和ってクソ牝……』
「ッ!!!」
あの蕩けた瞳は刺すような視線を放ち、それは最愛の彼女である奈和へと向けられた。
タムルが顎を振ると金髪鬼は景子から離れ、首輪とリードから逃れようと藻掻いている奈和の傍へと近付いていく……愛し合う二人の瞳は動揺に震え、互いに縋るように視線を絡めた……。
『そいつさあ、船の中に居た時から私の優愛ちゃんに“色目”使ってんのぉ。早く自分が何なのか“教えて”やってよぉ』
「!!!」
奈和も優愛も、今のタムルの台詞と態度に戦慄を覚えた……優愛は最初のターゲットが自分ではなく、この悍ましい台に拘束されたまま、奈和の凌辱シーンを見せ付けられるのだ。と、察してしまったし、奈和もまた、優愛の目の前で二人に乱暴されるのだと分かってしまった……すっかり落ち着きを無くした奈和は両足を踏ん張って身体を捩り、サロトから少しでも離れようと試みるが、その腕力に抗えるはずも無く、その場で地団駄を踏んでいるのが精一杯……更に金髪鬼に挟み撃ちにされてしまった事で、奈和は退路を断たれてしまった……。
『クックック……タムル様の可愛いペットに発情するとは、テメェも馬鹿な牝だなあ?』
笑顔を作りながらも、目だけは笑わない男が奈和の制服を掴み、冷たい笑みを浮かべた。
相変わらず馴れ馴れしく触れてくる金髪鬼に奈和の悪寒は止まらず、鳥肌は全身を覆った。
『◎∈☆%£……?』
『◇#@∂∃……〆×≒ΘΩ……♀♀』
デブオヤジと金髪鬼の会話の内容は奈和には分からず、それは景子にも優愛にも分からなかった。
それを分かるのは、春奈ただ1人だ。
(助けて……お願い…二人だけは……お願い……)
サロトと専務の会話は、言ってみれば此処では当たり前な事……数年前から繰り返されてきた〈女〉の存在理由を述べたまでだ……。
『おい、テメェは犬だとよ。御主人様がそう決めたそうだ』
「ッ!!!」
奈和も優愛も、そして景子も、その瞳には絶望の色しか無かった……刑事である春奈を一蹴したデブオヤジと、血も涙もない金髪鬼の二人が奈和を犬扱いしようとしているのだ……。