〈狂宴・前編〉-2
(お姉さんなら大丈夫。お姉さんなら……)
何度も優愛は自分に言い聞かせる。
あのオヤジ達が姿を現さないのは、姉に倒されたからだと……。
……と、またもドアノブがガチャガチャと鳴り、重苦しい音を発てて扉が開いた……その陰から顔を覗かせたのは、架純ではなく、あの何処を見てるのか分からない、鶯色の作業着を着た醜悪なオヤジであった……。
「い…嫌!!」
「奈和ちゃん怖い…ッ」
ニヤニヤと笑いながら侵入してきたタムルの他に、同じ作業着を着た部下達までもゾロゾロと入ってくる。
二人は怯えきり、互いに庇うように抱き合って部屋の隅に縮こまった。
正義は既に敗れ去り、もう何処にも逃げ道が無いのだと分かってしまったからだ。
「やだやだぁッ!!奈和ちゃぁん!!」
「な、なんのつもりよぉ!?離してえぇ!!」
せっかくの料理は器ごと蹴散らされ、空っぽのオマルは床を転げる。
奈和は羽交い締めにされ、優愛は手足を掴まれて運ばれていく。
部屋には静けさが戻り、二人が運ばれていく長い廊下が喧騒に包まれた。
『げぷッ……もう暴れないのぉ!ふぅ〜…景子お姉さんに会いたくないのぉ?』
僅か数時間前まで専務に酒を“飲まされていた”タムルの顔は青く、今にも吐きそうな様子で喉仏を上下させている。
目は涙ぐんで辛そうに見えたが、それより性欲の方が勝っているようだ。
二人は荷物も同然に運ばれていき、一番奥の突き当たりの部屋に連れていかれた。
ガチャン!と冷たい音を発して扉が開くと、その部屋からは“会いたかった人”の叫び声が飛び出し、優愛の全身を包み込んだ。
「あぁぁぁッ!!優愛あぁぁぁッ!!!」
「!!!」
僅か数時間ぶりの対面だというのに、姉の姿は優愛の知っていた姿とはかけ離れたものとなってしまっていた……。
自慢の長い髪は頭頂部に束ねられ、麻縄と同化されて天井から伸びる鎖に繋がれていたし、後手縛りにされた上半身はスーツも開けられ、歯形だらけの胸元から赤く腫れた乳首が飛び出していた。
そして下半身はスカートも既に無く、陰毛を剃られてしまった性器の膨らみを隠せないでいた。
しかも両足はH型の拘束台に縛りつけられ、歩くどころか立ち上がる事すら出来ない。
そんな姉が必死に優愛を助けようと、部屋の右奥に拘束されたまま、駆け寄ろうとして足掻いているのだ。