〈狂宴・前編〉-10
『クックック……悪いな刑事さん……取引先が“そう言う”んなら、俺には逆らえんぜ……』
専務は景子と春奈の悔しさを察し、薄ら笑いを浮かべて話し掛けた。
これから弄ばれる二人がどんな関係であろうが、暗かった優愛に笑顔を取り戻してくれたのは、間違いなく奈和だ……大切な人を汚されようとしている優愛の痛々しい姿を見て、景子と春奈の狼狽えもまた、悲惨な様相となっていく……それが専務やサロトやタムルには、楽しくて堪らないのだ……。
「あッ!?嫌ッ!!」
『煩えなあ。枷を外してやったんだろうが』
専務は奈和の手枷を外して床に放り投げた。
もう奈和の自由を奪っているのは首輪とリードだけで、五体満足と言っても過言ではない。
(おうおう、なんとも哀れな目をしおって……これからワシが嫌と言うほど可愛がってやるからのう?)
両手でリードを握り、零れる涙を拭わずに、引き寄せられまいと必死に抗う奈和をサロトはジッと見詰めていた。
多少は汚れていても白いセーラー服は充分に魅力的であったし、薄幸そうな美顔は在りし日の夏帆を彷彿とさせ、肉棒を痛いくらいに膨張させる。
これからこの美少女を我が物と出来る。
サロトの鼻息は荒くなり、作業着の股間の部分は、ファスナーが裂けんばかりに膨れ上がった。
『テメェは犬だって言ったよなあ?早く御主人様の足元に四つん這いになれ……』
(!!!!)
いきなり髪を掴まれ、至近距離で睨まれた奈和は竦み上がって動けなくなってしまった……この命令に背けば暴力を振るわれる…という恐怖に駆られながらも、自ら進んで醜態を晒す事への抵抗が大きいのも、また事実であった……専務に気を取られた背後から、強烈な悪臭が吹き掛けられた……振り返ったそこには、ニヤニヤとイヤラしく笑うサロトの顔が……その悍ましい笑顔の接近に、奈和の行動は本能に従った……。
「……嫌あッ!!」
奈和は力任せに首輪を外すと、脱兎の如く扉に向かって駆け出した……優愛の拘束を解こうともせず、一人で逃走を図ったのだ……。
『むぅ?……逃がさんぞ!!』
奈和の逃走を阻止しようとしたサロトの反応は素早く、牛蛙のように跳躍して飛び掛かり、羽虫を捕らえる舌のように腕を伸ばして奈和を押し潰した。
「ぐが…ッ!!」
奇妙な悲鳴をあげ、奈和はサロトに伸し掛かられた……細い腕ではこの巨体は押し退けられず、しかもサロトの手は奈和の喉元を握っていた……。
(こ、殺され…る……!?)
そう奈和が思った瞬間、サロトの手は離れた……だが、まだ首を握り締めてくる物がある……それは先程まで付けられていた首輪……喉仏を潰されて激しく噎せかえる奈和を、サロトは気遣う事すらせずにリードを引き、専務は怠そうに見下ろして、その頭を叩いた。