親対子-2
「本当に、もう大丈夫なのか?」
「だからさっきからそう言ってるでしょう!もう小心者なんだから。」
「そこはせめて心配性と代えて欲しかったな」
見慣れた妻愛用の花柄バックが棚に置いてあり、まだ顔や腕に生々しい包帯等が巻きつけられているものの、すっかり普段着にそれとは対象外に何時ものピンピンした華の姿があった。
「まぁ確かに傷はまだ痛むけど、何時までも家と娘の事を貴方に任せてられないもの、
お医者さんからも退院の許可は出てるし。」
「言うよねー♪まぁ、無理すんなよ」
「言われなくても。」
相変わらず口の減らない妻、するとドアの向こうから聞き慣れた声が
「お母さん!」
「杏!」
退院する母親に一歩遅れてからやって来た娘。
「おーい遅いぞー、やっとの思いで退院出来たって言うのに、何処道草食ってたんだよ」
「何よそんな怒んなくたって良いでしょ?別に野暮用だよ。」
俺は知っている、野暮用な訳が無い、一端に大人的な言い回しをしよって、娘はアイツの
元に行ったのだ、母親である華よりもあんな奴の所へ。
「お、おいっ!?大丈夫か!」
「な、何よ、大丈夫に決まってるでしょ」
急に体がふら付く娘、俺は咄嗟に肩を掴んだが。
「毎日見舞いに来てくれる時に話してたもんね、優梨子のトコで働いてるって、彼女も
見舞いに来てくれて聞いたよ「良く働いてくれた助かった」って」
「いやー、流石俺の子だ♪」
「黙んなっ!。…それで、何に使うの?」
「えっ?」
「決まってんジャン、汗水働いて稼いだお給料、何に使う訳?」
妻の上機嫌な問いに、言葉を詰まらせる娘。
「アンタこの前デパートで可愛いって言ってた洋服を買ったら?、他にもずっと行きたがってた函館に旅行に行ったら?」
「あ、確かに憧れはあるけど…」
「そーだぁ!私らに寿司奢ってよ!退院祝いを兼ねて…」
「んんー、寿司……いやそういうのには」
寿司と言えばすぐに飛びつく杏が、それに対しても否定的で。
「………杏」
自動ドアが開くと同時に病から開放された事を祝福するかの如く俺ら三人を包み込む風
「はぁーーー、良い風♪」
何に縛られる事無く、両腕を思いっきり伸ばし、瞳を閉じ、その風を感じる妻。
二人が肩を並べ、他愛も無い会話をし。俺は少し間を置き、娘の背中に目線を置く。
杏よ、俺は知っている
お前が汗水働いて稼いだお金、を何に使うかを
それは可愛らしい洋服でも無く、憧れの函館旅行でもなく、お前の大好きなお寿司に使う訳でもない。
お前はそのお金を実に常識外れで、下らない事に使おうとしている事を俺は知っている。
俺は、妻の病室に行く前に、絆君の病室へ寄った、すると娘がアイツに十枚ほどの札束を
渡している所を見てしまった。
どうして…
せっかく働いたお金をあんな奴の為に…
お前は騙されいる、あのままアイツと居ると不幸になる。
目を覚ませ娘よ。