ドウテイ脱出への道-3
「えーっ、楽しそう!」
突然湧いて出たキャンプの話に声を弾ませるのは、修の彼女の石澤さんだ。
どちらかと言えば地味な女の子だけど、修に恋をして付き合うようになってからの彼女は、驚くほど明るく、綺麗になった。
そんな彼女も、未だ修と最後までいってないという。
でも、今回のターゲットは石澤さんじゃなく、俺。
プレッシャーでいっぱいの俺とは対照的に、無邪気にはしゃぐ彼女が、純粋に羨ましかった。
「でもさ、そのコテージまでどうやって行くの? その場所だと電車でもキツいよね」
そう言うのは、歩仁内の彼女の本間さん。
眼鏡を掛けているせいか、控えめで大人しそうな彼女だけど、こんな清純を絵に描いたような娘が、セックスを経験済みだなんて、想像をしただけで鼻血が出そうだ。
「ああ、それについても大丈夫だから。安心して」
ニッコリ笑う歩仁内は、自信たっぷりに胸をトンと叩く。
コイツがそこまで言うならこの計画はきっと完璧に遂行されるのだろう。
生徒会役員の歩仁内は、人をまとめることに慣れているのか、幹事をやったり計画を立てるのが得意らしいから。
でも、歩仁内がそつなく仕事をこなせばこなすほど、俺のドウテイ脱出計画は確実に執行されるのだと思うと、プレッシャーでまた下っ腹が痛くなる。
冷や汗を垂らして俯く俺の肩を、隣に座る沙織がニッコリ微笑んで、とんとん叩いた。
「倫平?」
「あ、え、何……?」
キャンプの裏の目的を見破られたのでは、という不安から、目が泳ぐ。
でも、彼女は、そんな俺の不安なんて吹き飛ばすような、眩しい笑顔を見せたかと思うと、いたずらっぽくペロリと舌を出した。
「楽しみだね、キャンプ」
「…………」
ちくしょう、可愛すぎ!
純粋にみんなでキャンプを楽しむつもりでそう言った沙織。
でも俺のめでたい頭は、沙織の笑顔一つでテンションが上がる。
そして、こないだの修の言葉がリフレイン。
――沙織もきっと待ってんぞ?
……よし、今年の夏こそ決めてやる!
ようやく腹を決めた俺は、女同士でキャイキャイはしゃいでいる沙織の横顔をチラ見してから、ギュッと拳を握りしめた。