ドウテイ脱出への道-2
◇ ◇ ◇
「おい、夏休みはみんなでキャンプ行くぞ」
事の発端は、夏休み直前のとある昼休みに始まった。
学食の隅のテーブルを陣取っていた俺達。
突拍子のない修の言葉に、歩仁内と俺を除いた、沙織、石澤さん、本間さんの三人は目を丸くして奴を見ていた。
一方俺は、食べていたタラコおにぎりを喉に詰まらせそうになって、むせ返る始末。
慌てて背中をさすってくれた沙織に、大丈夫だと目で訴えていた俺は、そのまま視線を修に投げ掛けた。
絶対、何か企んでいる。そんな気がしながら。
「ちょっと待て! 高校生だけでキャンプなんて無理に決まってんだろ!」
思わず声が大きくなる俺に、学食内のみんなの視線が一瞬こちらに集まってしまい、思わず肩を竦める。
だって、テントの張り方だって知らないド素人が集まったって何も出来ないだろ!?
そう口に出そうとした所で、今度は歩仁内がニヤリと笑って見せた。
「無理じゃないんだな、それが」
「は?」
学食で一番人気の味噌バターラーメンをチュルリと啜った歩仁内は、修とアイコンタクトをしてからこちらを見た。
そんな二人のニヤケ顔に警戒してしまう俺と、キョトンと首を傾げる女性衆。
そんな俺らを尻目に、歩仁内は口を開いた。
「おれの親がさ」
歩仁内はゴホンと咳払いをしてから、あのいつもの爽やかな笑顔でみんなの顔をぐるりと見回した。
「3年前にコテージ買ったんだよ。ちょっと田舎なんだけど」
「コテージ!?」
学食のテーブルを挟んで向かいに座る沙織は、大きな瞳をキラキラ輝かせて、歩仁内の話を聞いていた。
「そう、会社名義の別荘で購入したの。
あまり大きくないんだけど、これくらいの人数なら十分泊まれるし、たまに使わないと建物も痛んじゃうし、ってことでキャンプを計画したんだけどどうかな?」
歩仁内は、地元の建設会社の息子であり、いわゆるボンボンってやつだ。
会社が保養所名目でコテージを購入したらしいが、辺鄙な場所のせいか、なかなか利用者がいないそうだ。
だから都合よくキャンプしようなんて提案ができたのだ。
コテージなら、テントなんて必要ないし、しかも歩仁内の口利きでタダで利用させてもらえるらしい。
その代わり、綺麗に使えということらしいけど。
「高校生活最後の夏くらい、最高の思い出を作りたいじゃん。
なあ、倫平?」
どうやら修と歩仁内の間で、この計画はすでに進められていたようで、奴らは俺に意味深な笑みをさっきからこちらに向けていた。