想-white&black-O-1
「麻斗さんっ」
ベッドに駆け寄ると麻斗さんが伏せっている姿があった。
いつものような輝きは潜められ、呼吸も荒く見るからに熱が高そうで紅潮している。
声に反応したのかうっすら目を開き私の姿を認めると弱々しく笑う。
「ごめんな、余計な心配かけちまったみたいで。でも花音に何もなくて良かったよ」
こんな時まで人のことを気遣う麻斗さんの心に胸が締め付けられる。
「大丈夫ですか? 私のせいで……こんな……」
「気にするな。別に花音のせいじゃないだろ。ただの風邪なんだからそんな大げさにするなよ」
「でも……」
喋るのもこんなに辛そうなのに。
言葉の合間に苦しそうな息が漏れている。
ただの風邪にしてはあまりにも酷く見えた。
「熱は……」
「大したことない」
嘘だ。
麻斗さんが私の手に触れてきた途端明らかに異常な熱さが肌を焼く。
だが麻斗さんは構わず話し続けた。
「寝ている間ずっと夢を見てた……。こんな風にお前が俺の側にいて、俺だけを……見つめて笑ってくれてる、そんな夢」
「麻斗さん」
息が苦しそうに胸が上下しているのがかけられた布団の上からでも分かる。
思わず麻斗さんの手をギュッと握りしめていた。
「もう喋らないで下さい。そんな辛そうなのに身体に障りますから」
「まさか目覚めたら本物の花音が来てくれるなんて思わなかった。……よく楓が許したな」
その言葉に扉に視線を向けた。
「実は楓さんも来てるの。今部屋の外にいるんです」
「そうか、ちゃんと見張ってる訳だ。今度は逃げ出されないように」
「……」
そうなのかもしれない。
ただ楓さんは待っていると言ってくれていた。
楓さんの本心は分からない。
私は一方的な想いだけで楓さんの側にいたくているけれど、そう言ってくれたことが密かに嬉しかったのだ。
その想いと見えない楓さんの心に板挟みになって苦しいのも事実なのだけど。
そんな私の心を見透かしたように麻斗さんが口を開く。
「楓は何とも思ってない女を側になんか置かねえから。どんな意味でもお前って女は特別、なんだ」
「麻斗さん……」
「俺は、アイツの事は昔から知ってる。だから分かるよ。ただ、それを認める勇気がねえ、だけ……、うっ……ゲホッ、ゴホ……ッ」
麻斗さんが激しく咳き込む。
それはなかなか治まらず苦しそうに顔を歪めていた。
「麻斗さんっ、大丈夫ですか? 無理しないで下さいっ」
「ワリィ、へーき、だからそんな顔すんなよ……。な?」
そっと握り締めていた手が離れ私の頬に触れる。
「花音、辛くなったらいつでも俺の所に来いよ……。何があったって必ず守ってやるから、さ……」
「麻斗さん……。今は私のことなんて考えないで早く良くなって下さい」
「ま、こんなんじゃ説得力もねえ、けどな……。でも俺は本気……。花音を困らせたい訳じゃねえから今は見守ることにする」
彼の力無く笑った顔が切なくて、私はしばらくその手を離せなかった。
こんなに優しい人を迷わず好きだと思えたらどんなにいいだろう……。
色んな感情が複雑に絡まった気持ちは言葉にならなくて、溢れてきた涙が頬を伝った。