想-white&black-O-6
それから少しして自分の中で麻斗さんの過去を受け止めてから、私は何回か麻斗さんの元を訪ねた。
もちろん楓さんには承諾をとって。
―――あまりいい顔はしないけれど。
麻斗さんは肺炎になりかけていたようで、回復に向かうまで数日かかり見舞いに訪れても会うことができない日もあった。
一度体調を酷く崩すとなかなか治らない体質なのだという。
それはあの出来事が始まって以来心身ともに追いつめられ、バランスを崩した身体はちょっとしたことでもすぐに体調を崩すようになってしまったのだそうだ。
今は落ち着きも取り戻し体力もついてきたため普通にしていれば何の問題もないのだが、今回のように寝込むことになると人より回復に時間がかかるのだと柚木さんが教えてくれた。
「麻斗さん、調子はどうですか?」
「花音! また来てくれたのか?」
麻斗さんはまだベッドの上でちょうど診察を受けているところだった。
結城の家が昔からかかりつけにしている病院の医師だそうで、麻斗さんのことも子供の頃から診ていたためよく把握していた。
「もうだいぶ良くなりましたね。そろそろ学校も大丈夫でしょう。ただし、調子に乗って無理をしてはいけませんよ」
「マジで? あ〜もうやっと病人生活から抜け出せるぜ。もう退屈すぎてシャレになんねえんだもん」
先生の言葉に麻斗さんがようやくかといった溜め息をついた。
「良かったですね、麻斗さん」
「ああ。花音にも心配かけたみたいでごめんな」
私は首を横に振る。
元々麻斗さんが風邪をひいたのは私のせいでもあるのだ。
「では私はこれで失礼いたします。また近いうちに診察に参りますので」
「ああ、いつもありがとう」
先生は一つ頷くと頭を下げて部屋を後にした。
「本当に良かったですね。また明日から学校に行けるんですから」
「ずっとベッドの中だったからなぁ。すっかり身体なまっちまったかも」
そう言いながら麻斗さんはベッドから下りるとテラスの方へ足を向けた。
「あ、麻斗さんっ、まだ無理しちゃいけませんよっ」
「平気平気。外の空気ぐらい吸わせろって」
慌てて後を追いかけながら、麻斗さんの表情は髪を無造作に下ろしてるせいか笑った顔が何だか無邪気に見える。
手すりにもたれかかり、その長い手足を思う存分伸ばした麻斗さんは私を隣に呼び寄せた。
「なあ、花音」
「はい?」
私を呼んだ麻斗さんの表情は、さっきまでとはうって変わって静かな眼差しで私を捉えていた。
「……聞いたんだろ。柚木と、楓から」
その言葉に心臓がドクッと嫌な音を立てる。
何の話か、なんてごまかしは通用しないだろう。
冷えた汗が背筋を滑り落ちた。
「そんな顔するなって。いいんだ、俺は。今となってはマジで平気だから」
「……でも」
言葉に詰まりうつ向くと麻斗さんの手のひらがあやすようにそっと私の頭に触れる。
「確かに人に言えるような話じゃねえけど、俺は花音に知られても良かったと思ってる。楓も柚木も花音だから話したんだと思うぜ」
「どうしてそう思うんですか?」
「もちろん話を聞いた時は戸惑ったよな。でも花音は人を蔑んだりするような女じゃねえから。なぜか不思議とそう信じられるんだ。きっと二人もそう思ったんじゃねえかな。俺もそうじゃなきゃお前を好きになってなかったかもしれない」
私を見つめる瞳の中に見える微かな熱。
何ものにも揺るがない意思を感じさせる瞳は私の心をかき乱していく。
私はどうしてもそれから目を逸らすことはできなかった。