想-white&black-O-3
またそれは仕方ないことなのかもしれないと思った。
どこにいても輝くあの存在感に誰もが目を奪われて興味を惹かれるだろう。
例え本人がそれを望んでいなかったとしても……。
それから柚木さんは固い表情で麻斗さんの事を話してくれた。
「麻斗様だけに関わらず彰斗様もそうでしたが、お二人は常に周りから注目されておりました。そういった中で女性の醜い争いを身近に感じてしまったせいか、麻斗様は誰かを愛するという感情を持ち合わせていなかったのです」
「そんな……、あんな優しい人なのに」
一度に両親を亡くし生活が一変してしまった私は慣れない環境の中で自分なりに必死だった。
弱味を見せてしまったらいけないとすら思いながら暮らしてた。
だけど本当は誰にも本心を明かすことができなくて心身共にとても疲れていた。
そんな私に最初に気付いて声をかけてくれたのが麻斗さんだった。
「元々明るく社交的でしたから誰とでも仲良くはできるのです。ただし本当にお心を開いているのは楓様だけでした」
「楓さん?」
隣を見ると楓さんは何も言わずただ黙ってコーヒーを飲みながら話を聞いていた。
「楓様とは幼少の頃より親しくされていましたから」
柚木さんが何かを思い出したかのように優しく微笑んでいた。
「いつもお二人一緒で行動されていて、楓様の前では本当に心から笑っていらっしゃいましたよ」
「ただの腐れ縁だ。たまたま父親同士が知り合いだったし、同じような境遇で気が合ったんだろう」
楓さんはそう言ったけれど、この人が信頼できない人と仲良くなんかしないと思う。
だが彼自身はあまり子供の頃のことなんかを蒸し返されるのは好きではないみたいだ。
「……そんな時でした。小等部の卒業も間近に控えたある日、ご兄弟のお母様が突然の事故でお亡くなりになってしまわれたのです」
「えっ? 事故、ですか?」
自身の両親のことがあったせいか、“事故”という言葉を耳にしただけで胸がぎゅっと絞られるように痛む。
「はい。ですから麻斗様は余計に似たような境遇の花音様に親しみを覚えたのでしょう」
初めて聞く話とはいえあの麻斗さんが小さかった頃にそんな辛い思いをしていたなんて。
どんなに悲しくて寂しかったことだろう。
麻斗さんの胸中を思いながら自分に重なって思わず涙が溢れそうになったところに、楓さんが忌まわしそうに低い声で口を開いた。
「それから一年以上が過ぎたあたりだったか。この家に新しい母親役がやって来たのは」
「新しい母親、役?」
そう聞かされてもピンとこなかったのは、ここで暮らしていた時も誕生日パーティーの時も麻斗さんの両親の姿はなく会ったことがなかったからだ。
写真も全く目にしたことはない。
「若く美しかったがその内側は財産目当ての醜い女だ。跡取りである彰斗さんには迂濶に近寄れなかったためかそいつは麻斗に目をつけた」
麻斗さんや彰斗さんの継母に対して吐き捨てるような言葉に目を瞠はる。
「俺達のような家で互いの利益のために結婚することなんかたいして珍しい話でもない。俺の両親もこの家もそうだ。情はあっても愛してる女じゃなかったから、この結城の家だって麻斗の母親が亡くなって一年程で後妻を迎えたのだろう」
楓さん達が暮らしてきた環境は多分私にとって別世界の話で、頭では理解できてもいまいち実感が湧かない。
そんな簡単な話なのだろうか。
「だが結城にはもう跡取りとなる息子が二人もいるのだから本来妻なんて必要ない。ただ本人の考えとは裏腹に周りが放っておかないものだ。そんな煩わしさや手間も省くためにもその女を迎え入れたのさ」
「そういう、もの、なんですか……」
私のような一般人の感覚とは違うことを否定するつもりはない。
その世界にはそこの事情なり考えがあるものだ。
何も知らない私が口を出す権利はないと思っている。