想-white&black-O-2
それから私は麻斗さんが眠るまでずっと手を握り締めながら側についていた。
薬を飲んだおかげかさっきまでの息苦しさは落ち着いたようで静かな寝息をたてて眠っている。
(綺麗な寝顔だなぁ。)
楓さんとは正反対のタイプだけど、その整った顔立ちにはやっぱりつい見とれてしまう。
しばらく見つめた後、金色に輝く髪が汗で額に張り付くのをそっと拭うと起こさないように部屋を後にした。
そっと部屋を出るとドアのすぐ横の壁にもたれながら立っている楓さんがいた。
「楓さん……」
「麻斗は?」
1時間以上は中にいたのにずっとここで待ってたのだろうか。
「ずっとここで?」
「たいした事はない。それで? 麻斗はどんなだったんだ?」
ただじっとこの廊下で待っていてくれたのかと思うと嬉しいような申し訳ないような気分になると同時に、麻斗さんと会っている間何を考えていたのか気になった。
ただそれを口にしたところで答えが返ってくるわけではないことは初めから分かっていることだ。
だからそれを聞くようなことはしない。
「だいぶ熱が高くて咳も酷いみたいなんですけど、今は薬を飲んで落ち着いて眠っています」
「……そうか」
楓さんは私の話を聞くとちらと麻斗さんの部屋の扉を見つめた。
何を思いながら見つめているのか私には分からなかったけど、どことなく安堵したような柔らかさが見えた気がする。
「あの、楓さん」
「何だ」
「その……何だか麻斗さん、ただの風邪にしてはすごく辛そうに見えた気がして」
「……………」
彰斗さんも柚木さんもただ風邪をひいたとしか言ってない。
だけどそれだけであそこまで酷くなるものなのか。
あの麻斗さんがあんなに弱り切ってしまう程に……。
普段の麻斗さんからは想像がつかなくて、正直あの姿を目にした時は驚きを隠せずにいた。
「楓様、花音様。お疲れ様でございました。下にお茶を用意させております。よろしければ休んでいかれてはいかがですか?」
結局返事を聞く前にタイミングを見計らったように現れた柚木さんに促された私達は、それ以上言葉を交わすこともないままそこを離れたのだった。
下の応接間に通されて、テーブルには美味しそうな香りの紅茶とケーキが、楓さんにはコーヒーが用意されていた。
私は楓さん隣りのソファに腰かけると紅茶を口に運んだ。
柚木さんが淹れてくれた華やかに香る紅茶は何だか気持ちを癒やしてくれるようだった。
「今日はわざわざ麻斗様のために足を運んでいただいてありがとうございました」
一息ついたところで柚木さんが深々と頭を下げる。
「いえ、元はと言えば私のせいなんです。本当にすみませんでした」
頭を下げてそう言うと、柚木さんは優しく笑みを浮かべながら静かに首を横に振った。
「花音様のせいではございませんよ。きっと麻斗様がそうしたくてしたことです。それに初めてなんですよ、特定の女性のために忘れ物を自ら届けるなんて」
「え?」
「ご存じかと思いますが、麻斗様は恵まれた容姿とこういう環境でお育ちですから言い寄ってくる女性は数えきれないほどおりました。しかし皆様結局は麻斗様の上辺だけで他は何も見ていなかったのです」
言われてみればそうかもしれない。
麻斗さんはどこに行っても周りからはそういう目で見られている。