三角関係-1
ここは魔物が多い南の大陸最南端、クラスタにある要塞。
その要塞の中ですやすや眠る幼い子供の寝顔を見ながら、1人の男がニヤニヤしていた。
「キモッ」
そこに声をかけたのは、くるくるパーマの黒髪に浅黒い肌、そして赤い眼の女性カリー。
「うっせぇつうの」
文句を言いつつもニヤニヤが止まらない男、スランバートは突然現れた我が息子にデレデレだ。
4年前、変な奴らと出会いその中のひと組のカップルに惚れた。
奴隷あがりで怪力チビ、生きる事に真っ直ぐな魔物男ゼイン。
巨乳デカ尻で惚れた男に命がけでついていった暗殺者の女カリー。
お互い異常な程に想い合っているのに、最後の一歩が踏み出せず端から見ててイライラさせるカップルだった。
そのカップルに惚れた。
しかも、2人ひと組で惚れたのだ。
単品でも萌えるが、2人が一緒に居てイチャこらしているのを見ると、狂おしい位に愛しい。
その変な感情に始めは気づかずに、常識で考えて女の方に手を出した結果が……目の前で寝ている子供なのだ。
「……嬉しい?」
母親であるカリーは、子供を起こさない様に小さな声で聞く。
「すっげぇ嬉しくて戸惑ってる」
暗殺者として生きて、数えきれない程の命を奪ってきたくせに、たったひとつの小さな命が大切に思えて困惑しているのが正直なところ。
「なんで産んだんだ?」
至極もっともなスランの質問に、カリーは困ったように笑ってからチョイチョイと手招きした。
ゼインにしか見せないこの『困った笑顔』に、スランは不覚にもどぎまぎしてしまう。
カリーに招かれるまま寝室を出たスランは、もう一度息子の寝顔を見てからドアを閉めた。
カリーはソファーに座り、酒の入ったグラスを傾けながら自分の横をポンポン叩いてスランに座るように促す。
素直に横に座ったスランにグラスを渡したカリーは、困った笑顔のまま答えた。
「アンタが好きだから」
「…………」
「勿論、ゼインを愛してる。だけど、アンタも好きなの」
カリーの話を聞く自分の心が、妙に静かだ。
「真面目な話、俺もお前が好きだ」
「……そう」
「だが、変な話だが……チビも好きなんだな」
「うん」
カリーもスランの言葉に静かに返事をしていた。