三角関係-4
「テオドアには普通の生活をさせてくれ。それだけが望みだ」
『死』が間近にあるような日常ではなく、穏やかに日々が過ぎていくような……一見、退屈な生活を送ってほしい。
スランはそう言うとゼインの獣耳に手を伸ばした。
敏感にそれを察知した獣耳がピルピル動き、スランはクスクス笑う。
「だな」
スランの望みはゼインも望んでいる事。
だからこそ大金はたいてパン屋を作ったのだ。
「仕送りはする。それぐらいしか出来ねぇし」
「ん」
ゼインの耳がへたんと垂れて寂しいアピールをする。
「寂しいか?」
「うっせぇよ」
口では生意気な事を言うが、耳も尻尾も垂れていれば一目瞭然だ。
スランはちょっと身を屈めてゼインの唇に軽いキスをした。
「抱く気はねえぞ?」
「抱かれたくねぇよ」
素直にキスを受けつつも、それとこれとは別問題。
否応なしに身体を重ねた事のある2人だったが、やはり男相手は嫌なのだ。
「やぁだ。居ないと思ったら逢い引き〜?」
そこへカリーが目を擦りながらやって来た。
「お前が言うな、この浮気もん」
ゼインが歯を剥き出して唸ると、カリーはぺろっと舌を出してゼインに抱きつく。
「んふ♪妬いた?」
「妬くに決まってんだろが」
抱きついてきたカリーに腕を回してガッチリホールドしたゼインは、彼女の頭を軽くグリグリした。
「どっちに?」
「…………」
しかし、この質問にはあさっての方向を見て答えず。
「んもう!やっぱりスランって大っ嫌い!!」
「ハッハッハ」
ぷうっと頬を膨らますカリーに、スランは大笑いし、つられて2人も笑った。
笑う3人をクラスタの朝日が照らしていく。
この微妙で絶妙な三角関係も悪くない、と思う3人なのだった。
ー三角関係・完ー