衝撃の事実-1
代表専用のチャーター便でフロリダまで13時間余りのフライト。
俺はずっと阿川さんと話をしていた。
サッカーの事、外国の事、代表の事、高校の頃の阿川さんの事、家族の事。
ずっと遠く届かない存在だと思っていた阿川さんだったが、意外と普通の人なんだなと親近感が湧いてきた。
俺も早く阿川さんの背中に追いつき、一緒のピッチに立ちたいという思いが強くなった。
おかげで長い旅路も退屈する事無く有意義に過ごす事ができた。
世界の阿川真一をこんなにも長い間占有できる贅沢。
話をしたら誰もが羨むに違いない。
着陸の瞬間も緊張する俺に対して阿川さんはそっと手を握ってくれた。
その光景は恥ずかしくて仕方ないが、心の中で礼を言いながらぎゅっと握り返す俺。
すっかり阿川真一の虜である。
フロリダに着いて合宿先に向かうバスに乗り移動する。
代表組とサポートメンバー他スタッフは別のバスだ。
阿川さんと離れちょっと残念だが仕方ない。
またグラウンドですぐに会えるはずだ。
不本意ながら隣に座ったのは角田勇気。
奴は奴でフライト中、近藤さんの隣に座っていたようで彼の話ばかりしてくる。
というかお前らは同じチームメイトなんだからいつでも一緒だろうが。
彼もまた近藤信者だから仕方ないのか。
目標としている人に一歩近づいたのだから浮かれるのも無理は無い。
俺は俺で阿川さんの事を考えながらバスで眠った。
合宿所はアメリカらしいだだっ広い豪快な敷地だ。
日本とはまるでスケールが違う。
敷地内にはサッカーを含め様々なスポーツに対応した施設が立ち並ぶ。
まさにスポーツ大国たる所以がここに凝縮されていた。
旅の疲れを癒すために、合宿初日は無理をせずランニングなどで軽く汗を流した。
その夕方は現地の日本人達を交えて小規模の激励会。
そこでも阿川さんは大人気だ。
俺はロゼッタの種田さんや川内さんに改めて挨拶をする。
「今更おせーぞ」
最初はそうチャカされたが、先輩たちを激励しつつ、俺自身の躍進も期待された。
ロゼッタ組でわいわい盛り上がっていたところを意外な人物がやってきた。
「タネ、カワ、お前らも楽しんでるか〜!?」
気さくに声を掛けてきたのは日本の大エース豊田敬二だ。
「ん?何だ?このちびっこは?フロリダの子供か?」
俺の方を見て言った。
確かに俺はチビで子供みたいだが列記とした高校生。
世界の豊田さんといえどさすがにムカッとした。
「ああ、こいつはうちのユースの子だよ、サポートメンバーの梅林だ。」
種田さんが俺を豊田さんに紹介する。
俺も高校生だ、いつまでも怒っていては仕方ない。
「梅林幸喜です。覚えておいてください!」
俺は元気よく挨拶する。
この世界では威勢よく挨拶すればたいてい好印象だからだ。
「ふ〜ん、ロゼッタユースの梅林か。覚えておいてやるよ、よろしくな。」
そう言って豊田さんは右手を差し出す。
握手してもらえるのか、感激だ。
俺も手を差し出すと凄い握力で握ってきた。
「あ、わりいわりい、いつもの癖で加減間違えた。」
苦笑いしながら、そしてそのまま去っていった。
阿川さんと同じかそれ以上の実力者なのに豊田さんの人気はイマイチだ。
自信満々のキャラのせいか横柄な態度が好感度を下げている。
それでも有言実行するすげえ奴だと種田さんと川内さんは言っている。
そしてお二方に指摘されて気づいたのだが、豊田さんはハッスルユース出身だ。
ただ、紆余曲折ありプロデビューまでに苦労したようだ。
だから今のキャラクターが生成されたとも言っている。
少なくとも代表では一番頼りになる男だ。
他の代表メンバーから色々な話を聞き若い俺にはとても勉強になった激励会だった。
そして夜が来た。
あまりに色々な事がありすぎて部屋割を気にする暇も無かった俺にさらなるサプライズがあった。
なんと、阿川さんと2人部屋だ。
やばい、緊張する。
何故か頬を赤らめる俺。
別に男同士が同じ部屋に泊まるくらい、何も恥ずかしい事はないはずだ。
だが憧れの阿川さんと一緒だと思うと頭がグルグルしてしまう。
「お、ウメじゃないか。部屋はこっちだぞ。」
頭をグルグル回している俺に向かって阿川さんが声を掛けてきた。
「あ、は、、はい」
俺は頭が真っ白になった。
そしてヒョコヒョコ部屋に着いていく。
荷物を下してそっと一息。
部屋にはベットが二つ。
ここで阿川さんと寝るのか・・・。
何故か感傷的になる俺。
「ウメ、お前も長旅で疲れたろ。先にシャワー浴びて来いよ。」
「あ、はい。さっさと浴びてきます。」
反射的に阿川さんを待たせてはいけないと思いユニットバスへ直行する。
今日は色々な事がありすぎた。
まずはゆっくり汗を流してしまおう。
服を脱いで全裸になる。
また着る事になるので丁寧に畳む。
そしてシャワーを流し始める。
ちょっと温めにしてリラックスしよう。
そう加減を確認していると、
ガラガラガラッ
いきなりドアが開いて誰か入ってきた。
「だ、誰だ!?」
そこには阿川真一がいた。
一糸纏わぬ姿で・・・。