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夢しんリャク
【ホラー その他小説】

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夢しんリャク-6

ろく
電車に乗っている。わたしはさっき寝たはずだから、また夢の中だろう。

見慣れた風景。毎日通勤に使っている、電車の車内かもしれない。とするとこれは普通の夢で、電車に揺られているのは「私」ではなく私なのだろう。
久々に普通の夢が見られる安堵と、今夜は人を殺せない物足りなさを感じながら、座席に深く腰かける。車両に、わたし以外の客はいない。ちょうど駅に着く直前のトンネルの中で、わたしが下りるのは終着駅だから、いつも帰宅する時分はこんな感じだ。となると私は、会社から帰宅する夢でも見ているのだろうか。あまりに平凡な内容に失笑する。しかも今日は休日だったと言うのに、我ながら律儀なものだ。

そんな事を思っているうちに、電車は駅に着いた。見慣れた階段を上って、見慣れた改札を抜けて、見慣れた駅前広場に出る。これまた見慣れた、一風変わった噴水がある。
帰宅時間に相応しく、地方都市の寂れた駅前に人影はまばらだ。待ち人でもあるのだろうか、噴水の前に女性がひとり立っている。私はまっすぐに、その女性に近付いていく。
こちらに背を向けているので顔は分からない。知り合いにこんな女がいただろうか。まぁどうせ夢の中だ、さほど親しくもなかった小学校の同級生、なんて事もありえるか。

どんっ。夢の中のわたしが、体当たりするみたいに女にぶつかった。女がこちらを振り向く。
全然知らない顔。なぜだかみるみる、顔が歪んでいく。いきなり当たったのは悪かったが、そんなに深刻な顔をしなくてもいいだろうに。まるで死にそうな顔じゃないか。
女の顔が、震えるように俯く。私の目線がそれを追う。女の脇腹に、深々とナイフが刺さっている。さらに深く、ぐりぐりと抉るように捩じ込んでから、目線を戻す。
見知らぬ女は、「なんで?」と問いかけるように、呆然と「私」を見つめている。
その口許からこぽりと血糊があふれたところで、私の目は覚めた。

まさか。そんなはずは。

そう思いつつも社会人の性で――というより何とか「日常」と繋がっていたくて、いつも通り支度をして駅に向かう。広場に張り巡らされた規制線と、ペンキをぶちまけた様な夥しい血糊の前を、吐き気がしそうなほどの動悸を抑えて駆け抜け、改札へと、いつも通りの「日常」へと駆け込む。

休み時間。堪えきれずに検索したネットニュースで、私の「日常」は崩壊した。
行方不明の被害者の顔に見覚えがあった。面識はない。だって昨日、夢で‘会った’きりだから。


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