夢しんリャク-4
よん
仕事帰りの夜道で、私は昨夜の‘殺人’を思い返していた。
慣れとは怖いもので、もともと乱歩の小説を読んでいたせいもあるのか、最近では怪奇小説を読む気持ちで夢を見ている。そうやってフィクションだと思い込むことで心の安定を保っている反面、次はどんなやり方を見せてくれるのだろうと、期待している自分も居る気がした。
ふと前を見ると、ひとりの女が歩いていた。黒いスーツを着た、OL風の女が。
どくんと心臓が高鳴る。(待て、高鳴るって何だ。) 昨日の夢もこんな暗い夜だった。この辺は街灯も人通りも少なくて、一本脇道に入れば‘狭くて薄暗い路地’だ。(いや、そんな事確認してどうする。) しまった、人の首を刎ねれるような刃物なんて、持って来てねぇよ。
まるで犯罪者のように考えながら、ふらふらと女との距離を詰めていく。
距離を詰めて、それからどうするのだろう。謝罪?…昨夜、貴女を殺してしまったみたいなんです、夢の中で。大変失礼をいたしました。それとも――‘夢’の実現?
すぐ背後まで近付いたところで、女が振り向いて、私は我に返った。
昨夜の女じゃあなかった。当たり前だ、黒いスーツのOL風の女なんて掃いて捨てるほど居る。でも我に返った時、自分の両手が女の首の高さにあったのには愕然とした。
知り合いに似ていたが人違いだったとか何とか、苦しい言い訳を早口に捲し立てて、逃げるように立ち去る。さすがに怪しかった。通報されたかもしれない。
いや、もう通報された方がいいのかもしれない。