歪な氷雪-4
3
ぼちぼち客足が増えてくるだろうな──と丹波直樹(たんばなおき)はレジカウンターのそばで電子煙草をくわえたまま算用していた。
医者から煙草を控えるように言われたのもあるが、三歳になる孫娘に、
「おじいちゃん、お口が臭い」
とそっぽを向かれたのがかなり効いたのである。
それでさすがに禁煙しないわけにはいかなくなったというわけだ。
薄暗い店内なので、電子煙草の小さな明かりでさえよく目立つ。
客は男性ばかりが四、五人といったところだろう。そのうちの一人がレジカウンターのそばまでやって来て、どうも、と会釈してきた。
「やあ、今日は来ないのかと思っていたよ」
歓迎する表情で丹波は言った。
「美羽のやつが友達と鍋パーティーをするとかで、それが終わるまでは一人なんです」
レンタルショップ『万博書店』の店主に向かって雅治は事情を漏らした。
「だからといって、世間がオリンピックで沸いているって時にわざわざレンタルかね?」
「それとこれとは別ですよ」
「気持ちはわからんでもないが、美羽ちゃんだって父親の背中を見ているわけだし、それとなく気づいていてもおかしくない年頃だよ?」
丹波に突っつかれ、いやいや、と雅治が手を振る。
「俺のことなんてちっとも見てませんよ。大体、父親と娘なんて組み合わせで、うまくいくはずがないんです」
「マサくん、家族の絆ってもんはね、ちょっとやそっとじゃ切れないように頑丈にできているんだよ」
またその話だよ──と雅治は頭の後ろを掻いた。はやく本題に入らなければならない。
「そんなことよりおやじさん、そろそろ営業のほうをお願いします」
「ああそうだった。新しいソフトが手には入ったところなんだ。ちょっと待っててよ」
そう言って丹波は店の奥へ消えると、一枚のDVDを手にして戻ってきた。
「ちゃんと正規のルートで仕入れたやつだから、怪しいもんは映っていないと思うよ」
「怪しくないかどうかは見てから決めます」
雅治は会員カードと現金を財布から出し、とりあえず一週間の予定でそのソフトを借りることにした。