歪な氷雪-31
やきもちか──と雅治は心の中で復唱した。
クラスメイトに嫉妬するほど胸を焦がしながら過ごした学校生活が、美羽の一途な気持ちを歪ませてしまったのは間違いなさそうだ。
彼女たちはみな繊細な心の持ち主である。性の話題にも敏感だ。
それにしても、と雅治は思う。そんな女子高校生らにちやほやされて、交際でも申し込まれたりしたらどうしよう、などとあらぬ妄想に耽って鼻の下を伸ばす。
「女子高生に人気があってよかったね」
と美羽に睨まれ、雅治はぎくっと首を折った。やはり娘には適わない。
そして、
「ありがとう……」
と美羽は態度を一変させた。
「お母さんが見てた景色を、あたしにも見せてくれて、ありがとう……」
それを聞いて、いつか娘が言っていた生意気な台詞を雅治は思い出す。
お母さんが見てた景色を、あたしも見てみたくて──確かそんな台詞だったような気がする。
「言うじゃないか。スキー初級者のおまえに、あの雪山でどんな景色が見えたっていうんだ」
「ううん、違う」
あのね、と美羽は言葉を継いで、ずっといじっていた携帯電話の画面を雅治のほうに向ける。
メールの入力画面が表示されていた。そこには、こういう文字が並んでいた。
『お父さんと結ばれたあの夜、大人にしか見えない景色があたしにもようやく見えた。ありがとう』
雅治は、美羽は、お互いの顔色が赤く火照っていくのをただ見つめ合った。
終