歪な氷雪-3
不意に二人の目と目が合った。
「どうかしたのか?」
「べつに」
「お小遣いの交渉なら後にしてくれ」
「そんなんじゃないから」
「俺がサポートできるのも、おまえが高校にいるあいだだけだ。いや、大学までは面倒を見てやる。しかしそこから先のことは自分の収入だけで何とかするんだぞ、いいな?」
「まったく、厳しいんだか甘いんだかわかんないじゃん」
美羽からの指摘を受けた雅治の箸が一瞬止まり、ふたたび器の中をぐるぐるさまよいはじめる。
そして、とにかくそういうことだと口を曲げながら、出し汁でふやけた天ぷらをたいらげ、小さくげっぷした。
こんなふうだから、いつまで経っても父親としての威厳が醸し出せないのである。
父子家庭に必要な何かが欠けていることはわかる。けれども納得のいく解答を出せないまま今日まで来てしまった。
きっとこの先も、何の変哲もない毎日がつづくのだろう。
「今夜は友達と約束があるから」
と美羽が言う。
「高校生がそんな時間に、どんな約束があるっていうんだ」
「女の子たちだけで鍋パーティーをするだけ。だから安心して」
雅治は鼻でため息をついた。安心できるわけがないだろうと思いながらも、美羽の話を信用してみようと努力することにした。
「車で迎えに行ってやるから、終わったら電話をよこすんだぞ?」
「わかった」
会話を断ち切るように美羽が言ってきた。
確かめたいことは他にもあるが、日に日に見違えていく愛娘を直視できない雅治であった。