歪な氷雪-26
やがて唇が離れた時には、迂闊なことを口にできない雰囲気が漂っていて、してしまったことの大きさを雅治は思い知る。
見れば美羽は微妙な表情をしていた。だからといって後悔しているふうにも見えない。
「ごめんなさい。もうしないから……」
と取り繕う美羽の瞳が潤んでいくのを雅治は見過ごせなかった。
「いいんだ……」
雅治は美羽の背中を抱き寄せて、髪を撫で、うなじを嗅ぎ、柔らかい乳房を実感しながらきつく抱きすくめた。
娘の成長は十六歳で止まるわけではない。女らしくもっと肥えて、もっと熟れていくだろう。そう考えるとますます欲情してくるのだった。
「美羽……」
二度目のキスは雅治のほうから迫った。美羽は目を閉じて唇を受け入れた。今度は唾液が混じるくらい濃密なキスだ。美羽の涙も混じっていた。
美羽という名前の字画にこだわっていたのはいつだったか、どんな願いを込めて命名したのか、一人目は男の子が欲しいと思っていたはずだったとか、父娘の原点のいくつかを雅治は思い出していた。
あの頃の自分が幸せの絶頂にいたのは間違いない。
生まれて間もない娘と対面し、これが自分の分身なのかとかつてない喜びを感じていたのだ。その分身同士が今こうしてひとつに交わろうとしている。
美羽の体は強張っていた。一線を越えることが不安で緊張しているのだろう。
かまわず雅治は美羽の浴衣を脱がしにかかった。白い胸元が灯りの下に晒され、胃がむかつくほどの性欲をおぼえた雅治は、娘の乳房に顔をうずめながらそこに舌を這わせた。
「あん……」
美羽の吐息に急かされるように雅治の口が乳首にまで及ぶ。びくんと応える美羽の体に汗が滲み、雅治の愛撫にも潤いがあらわれる。
娘の着衣を腰まで下ろしてやると、自分も脱いでふたたび唇を貪り、さまよう手を美羽の太ももへとやった。
「待って……」
美羽がじらしてくる。部屋の灯りを消して欲しい、避妊をして欲しい──多分そう言いたいのだろう。
「俺は十六年も待ってやったんだ……」
父が言ったあと、
「お父さんが初めてだから、やさしくして欲しいだけ……」
ゆとりのない声で娘は告げた。
そんなことまで言えるようになったのかと、雅治は複雑な思いを募らせ、凛々しく成長した娘に愛の刃(やいば)をちらつかせる。
それは肉体であり、声であり、性器である。手際が悪く、地味な前戯しかできないが、せめて大事に思っているという気持ちが伝わればいいのだ。